第五章(2)以洋、幽霊に同情する
充分にその場を遠ざかるまで走り続けた後、ようやく
走ったからというだけでなく、
少し考え、
時計を確認すると、今はちょうど電話を掛けてもいい時間に当たっている……――――。
『もしもし……』
携帯電話の向こうから
『どうしたの? 今、どこだい?』
「ええと、どこだろ……、よくわからない……」
電話の向こうで
『ちゃんと見張っててくれる相手のところに行くようにって、言っただろ? なのに
それでも口調はお説教だ。また心配を掛けてしまったことにしょげながら、
「違うよ……
「まずは落ち着いて。傍の家に番地プレートが付いてるだろ? そこに書いてある通り名を確認してみて」
「ええっと……」
建物の壁に目を走らせて番地プレートを探す。
結局、通り名を伝えた後は
「なんであんな悪い人が存在するのかな……」
少年時代から愛していた相手が自分を裏切った、それが
……しかし、
単に
溜め息を吐いて
その状態で何分過ぎたのか。車の音が聞こえて顔を上げると、やはりそれは
「こんなとこまで何しに来てたわけ?」
ジーンズの尻についた砂を払って車に乗り込んできた
「その、
俯きながらの
しかし……、
「彼のお母さんは、少しは立ち直ったようだった?」
「ううん……」
そう答えた
「けど、あいつは、あの
怒りに声を詰まらせながら
「
真っ赤になって声を震わせている
「そういう事情を聞くと、
「違わないけど、でも……」
泣き出しそうな顔で
「でもそれは、
やるせない思いで
「
「それでも……もし
やりきれなさそうに
「そうとも限らないよ。
溜め息交じりの
「……
「可能性はあるけれど、その場合も容疑は横領であって殺人じゃないよ。だから俺の担当じゃない。……けど、そんなに気になるなら、そっちの課の知り合いに訊いてみることはできるよ。ただし、俺が出ていって逮捕することはできない」
手を伸ばし、
「なんで……、なんで
「君って子は……」
また涙声になった
「なんで君はいつも他の人のために泣いてるんだろうね?」
「わかんないよ……、けど、なんか悲しくて……」
今感じているこれはきっと
キスされる。
唇が重なってきて
ここ数日、しょっちゅうキスをしたり抱き合ったりしている自分達は、もうまるで恋人同士みたいだ。好きだという言葉も
たとえば昨日だって自分が口にしたのは、
なんで僕は
『お前が幸せになんかなれるもんか!』
「っ……」
殴られたような痛みが急に襲い掛かってきて、
「どうした?」
驚いて飛び上がった
「だ、大丈夫……、急にちょっと頭痛が……」
顔を顰めて
「本当に大丈夫なの?」
「うん、平気」
心配そうに頬に触れてくる
『俺は出ていかないからな! 追いだせるなんて思うなよ!』
僕は幸せになるさ! ……君のことなんて気にしない!
かんしゃくを起こしたように暴れている
『お前を幸せになんてさせるもんか! お前の身体も人生も俺が奪い取ってやる。お前が持ってるもの全部、俺のものにしてやるんだ!』
「それで、
「……たぶん、……もうじき」
『見てろよ! 俺はお前から離れてなんかやらない! 俺が地獄に落ちるなら、その時はお前も道連れだ!』
「まずはここから移動した方がいいんじゃない?」
大きく息を吸ってから、
「食事に行こうか? 午後はまた講習に戻らないとならないんだ」
「うん、それでいいよ」
車を走らせながらそう訊ねてきた
もういいだろ……、落ち着けよ……、落ち着こう。
幾度か深呼吸し、
頭痛が止んで
あ、ほんとに効いたみたいだ。
目を開けながら
「もう大丈夫なの?」
ハンドルを握っていない方の手で
「うん、もう治った」
笑ってそう答え、
やり直す機会があるはずの誰かを、こんな風にして
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