第三章(2)以洋、葉家から行方不明になる
「春、
「黙ってろ。何か見えたんなら、俺がお前をずっと睨んでる必要がどこにあるんだよ」
不機嫌そうな答えが返ってくる。
「お前、本当に覚えてないんだな? 今日の午後に何をしてたのか」
もう一度、
この質問は実のところ、もう五回目だった。
さすがに
「ほんとに覚えてないんだってば。その幽霊と話をしてみようと思ったんだけど、返事もしようとしないんだよ。それで独り言言ってるのもつまんなくなってきて、ソファの上で寝ちゃったんだ。それっきり七時まで寝ちゃうなんてわかるわけないだろ? で、
辛抱強く五回目の説明を繰り返した
「あのさ……
「いいや」
苦笑して
「ああめんどくさい」
不意に
「この件が解決するまで、お前この家から一歩も出るな。そうすりゃ何か起きるのは避けられる」
「うん。……ごめんね。……また迷惑掛けちゃった」
申し訳なさそうな声を出す
「迷惑だなんて誰が言った? 勝手な解釈すんじゃねえよ。そのDVDってのは持って帰ってきたんだろ? 出してみせろ」
「う、うんわかった。面白い映画なんだよ?」
自分の部屋へ飛んでいった
「ただ、なんでかわからないけど居眠りしちゃったんだよね、三回も……」
「三回も居眠りするような映画のどこが面白いんだ!」
目を剝いた
「映画のせいじゃないんだってば! たぶん僕が疲れすぎてたんだよ」
そのままリビングのソファに三人並んで座っての映画鑑賞会が始まる。
結果、三十分経たずに
「こんなサスペンスな展開だってのに寝るのかよ? こいつ、アクション映画は大好きだとばかり思ってたんだがな」
不可解な気分でそう言いながら、
「そんなに疲れてるのか?」
「やっぱり何か問題があるな。……こいつを守ってるあれのせいかも」
近付いてきた
「駄目だ。やっぱり
上掛けを持ってきて
「
「いや、
上掛けを整えてやりながら
「あいつに電話してくれ。あいつが来たがらなくても、とにかく来させるんだ。でなかったら
「わかったよ。もう遅いし、明日の朝に電話してみる」
笑いながら
「先にこの映画、最後まで見るか?」
「うん、すげえ面白い」
手を伸ばしてクッションを抱え込み、
――――……
だが、何らかの病気を発症したという風にも見えなかった。
「お前、もう電話したか?」
「掛けた。けど出ないんで、留守電に吹き込んどいた。
「
「うん」
頷いて、
だが、その大体三十分後、
「
「寝てるんじゃないのか?」
呆気に取られて訊ね返した
「いなくなったんだ」
「ここから出るなって、昨日あれだけ言ったのに! いったい何やってんだ、あいつは!」
まなじりを吊り上げ、
予想外の行動を
「本当に……取り憑かれてるってことか。で、しかも、
「もしそいつが家から出ようとしたんなら、俺は察知したはずだ」
だが、呼び出し音が幾度か鳴った後、留守番電話に転送されてしまった。
「あのガキ、俺の電話に出ないだと!」
通話を叩き切った
「あの馬鹿ども、いつまでヤってんだ!」
怒り狂いながら、更にもう一つの番号を
「もしもし、
電話を手にしたまま、
「まだ寝てる? かまわないから! 今すぐ俺の電話に出なかったら、今後一生あいつの電話に俺は出ないって言って起こして!」
回線の向こう側、
「わかったから、少し待って。すぐに起こすよ」
左手に携帯電話を持ったまま、
「
「うう……なんだよ」
「
そう言いながら
「ああ? ……
びくりと身じろいだ
「ほら」
通話中の電話を
「もしもし?」
そう言いながら
ベッドの上に座り直し、目を擦りながら電話を少し耳から遠ざける。そこから漏れてくる
「
「……あいつに何も起こるわけないだろ……」
寝乱れた髪を手櫛で整えながら応対していた
「今なんつった? 取り憑いてる? そんなわけが……」
そのまましばらく話し続けた後、
「わかった。あいつを探させる」
怠い腰を伸ばしながら床に落ちていた服を拾い上げ、出掛ける準備をしようとしていると、まだ裸のままの背筋を
「緊急事態かい?」
思わず背筋をしならせた後、
「急ぐんだよ」
指を引っ込めた
「
その言葉には首を左右に振り、シャツのボタンを
「あいつのとこには行かない。今はまず、あのバカチビを探す」
服を着終えた
そのまま目を閉じて少しの間待ってから、宙に手を差し伸べる。その腕には既に
「いい子だ。あのバカを探してきてくれ」
羽毛をそっと撫でてやった後、再び腕を伸ばして鷹を放つ。鋭い声を上げて
「急いでくれ……、あのバカが何かしでかす前に見つけ出さないと……」
眉間に皺を寄せた
既に明るくなりつつある空を見つめながら、
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