第二章(3)以洋、(暇なので)床を掃除する
――――……翌朝、
礼を言って
分譲なしの賃貸のみという物件だったが、結果的にはすぐに満室になった。
ただ、
「何、不景気な顔してんのよ?」
「あれ?
慌てて
「そうなのよ。昨日くっつけてあげたんだけど、なんでだかどうやっても巧くくっつかなくって」
眉間に皺を寄せた
「ここに座ってて。どこにも行っちゃ駄目だよ」
「綺麗に取れそう? 僕がやろうか?」
「あんたの方があたしより手先が器用だっての?」
キッと
「
「あ~……
乾いた笑い声を
やっぱりこの二人はいい幽霊だよなあ。僕をいじめたりしないし……。
しかし
「あれ、来てたのか」
「なんか食うものあるか?」
「お腹減ってるの? すぐ作るよ」
立ち上がった
「減ってる。飢え死に寸前だ」
腰を下ろした
「悪くない感じだな」
「でしょ」
なんとも言えない沈黙の中、
「ああああ――、ごめんってば、泣かないでよ。瞬間接着剤ならいけるって思ったのよ。あなただってステープラー使うよりはいいだろうし……」
大慌てで首を拾い上げた
「床は
「貸してみろ」
溜め息を吐いた
「昨日には帰ってきてって、前から言ってたじゃない。くっつけてもくっつけても二週間持たないのよ……」
口を尖らせて文句を言いつつ、
「わかったわかった。次はちゃんと帰ってくるから」
全く誠意の籠もっていない口調で答えながら、
「どうしたの? 瞬間接着剤でも駄目だったわけ?」
オムライスの載った皿を手にキッチンから出てきた
「テレビでCMがばんばん流れてる超強力な接着剤使ったのに……。車が吊り上げられるってやつなのよ?」
「ていうか、僕がステープラー使ったのはいったいなんでだと思ってたのさ……」
悔しそうな顔の
「
「ああ……、ちょっと待ってろ……」
思わず
頭さえ元に戻すことができれば、
ただ問題は、今はどうやっても掘り出せないということで……。
幾分憂鬱な気分で、
「よし。これでしばらくは落ちないぞ」
「で、お前はまた何をやらかしたんだ?」
「
「だから僕は何もしたわけじゃないんだってば……。向こうが僕の傍に落ちてこようとしたんだから、僕の方はどうしようもないじゃん。押し潰されなかったのがラッキーだったんだよ……」
そう言いながら、
押し潰されなかったのは単なるラッキーじゃない。あの時、何かが
「どうした?」
不意に
「痛たたた」
自分の大事な頬っぺたを
「単に思い出しただけだって。あの人が落ちてくる前に、誰かが僕を前に突き飛ばしてくれたなって……」
そして、
既に
「
「ああ。お前がそいつを一日身に着けてれば、『あいつ』は一日お前を守る」
「けど、あいつを使って妙なことはするなよ。さもないと、最後にはあいつを制御できなくなる」
「制御なんて、そもそもどうやったらいいのかわからないよ……」
顔を顰め、
「ま、そのうちにわかってくるさ」
教えてくれるつもりは
「毎日何に忙しくしてるの? そんなにお腹空かせてるなんて」
「子供の訊くこっちゃねえよ」
皿をシンクに下げに行った
「小さくないよ……もう子供じゃないし」
頬を膨らませている
「なんだ? あの
からかわれているのを察して、
「……帰る……」
だが、玄関を出る前に
「
仕方なく足を停めて振り返った
「もしどうしたらいいかわかんなくなったら、ここに住みな。部屋をちょっと改装するくらい大した手間でもないし、
少しの間考えてから
「応じることはできる……はずだと思うんだけど」
言ってはみたものの、言い終わってみると我ながらどうにもはっきりしない答えにしか聞こえない。溜め息を吐いて
「帰るね」
「ちゃんと道を見て歩けよ」
玄関のドアを閉めた
だが、まあいいかとすぐに思い直す。どうせ
それっきり
皿を洗い終えたら、今日はもう帰ることにしようと思う。一階にまた停まっているのが見えた車を、あまり待たせないように。
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