ボーナストラック
ウゥ――。
パトカーのサイレンが鳴り響き、あたりにいた人たちは、蜘蛛の子を散らしたように消えていった。
三曲目の祟姉妹の曲が終わった直後のことだ。
近隣住民の方々から近所迷惑で訴えられ、パトカーがたくさん、警察に二十四時で暴走族を検挙する時に見かけたくらいの数がやってきた。
「やっべ!」
ゆらさんはそう言い残すと、忍者のように素早く消え、気がつけば舞台に残ったオレ達三人だけが、パトカーに乗せられ、運ばれていた。
後悔。
後悔しかない。
なぜあの時、
『ロッカーは、国家権力に立ち向かうもんなんだぜ!』
「マジか!?」
なんて、くっぴーのアホな言葉に少し惹かれ、逃げ遅れたのだろう。
あぁ、お母さん。申し訳ございません。
警察署につくと、いわゆるあのドラマとかで見る、カツ丼を食う部屋に三人一緒に入れられ、バカなことをした後悔と、親への謝罪の念が頭をぐるぐる駆け抜け、警察官の怒鳴り声が右から入って左から抜けていた。
「ごべんだざい! ずびばぜん……ぼうじばぜんがら、ゆるじでぐだじゃい……」
オレは、泣きながら許しを乞うた。
学校に知られたらこれは退学か? せっかくマルメロと同じ軌跡を歩めるはずだったのに! そんな事を思っていると、もう涙が止まらなかった。
部長はただ黙って窓の外を眺めている。
くっぴーはというと……、
「貴様、警察舐めてるのか!」
怒られてる最中にラムネ食いやがったッ!!
警察官はプラスチックマイクに入ったラムネを取り上げると、
『なにしやがる!』
くっぴーはボードを叩きつけた。
いや、お前が何してんだよ。と言わんばかりに全員ぽかんと口を開けている隙に、次々と文字を書き連ねる。
『それは、わたしのドラッグだぞ!』
コイツ、頭おかしくなったんじゃねえのか!
オレは咄嗟にくっぴーをドードードーと、犬でもあやすかのようになだめるが、
『それを食ったらハイになるんだぜ! ファ――――ック!!』
と書いて、人差し指を立てていた。
…………。
室内は一気に静まり返る。
警察官もあきれているのか、口を開けたまま、心配そうにくっぴーを見つめるばかりである。
その時、
「……ぶっ」
一人が吹き出す。そして、
「はは……ひひひッ、ぶっ、ひゃ、はぁっはっはっはっはっは!!」
お腹を抱えて、声を押し殺す事なく盛大に笑うくっぴー。
これまで、どれだけ面白くとも、自分の声を他人に聞かせたくないと涙もこらえ、笑い声さえも必死に押し殺していた。そんなくっぴーが、今、遠慮なしに警察官の唖然とする顔を見て、爆笑している。
「……くくッ」
そんなくっぴーにつられたのか、部長も小さく肩を震わせながら必死に笑いをこらえている。
気がつけばオレも、
「は、はは……ぷぷっ……」
怒られているのに、笑いが止まらない。
そんな三人の姿を見て、警察官はみるみる顔をゆでダコのように赤く染め、
「き、貴様ら――――ッ!!!!」
満月が輝く夜。奇麗な夜空には、警察の怒鳴り声と、くっぴーの遠慮のない、ほがらかで楽しそうな笑い声が響いていた。
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