第92話 ラファエルの本音はどこに?
「さぞかし、大いなる勘違いに取り憑かれていることだろう。きっとこう思っているはずだ。『ラファエルに裏切られた』と」人工生命体は亡骸のそばから立ち上がりつつジュリエットに語りかけた。「だが私は裏切ってなどいない。約束通りとどめは刺した。おまえがリリスを殺したわけではない」
「おまえ…」
一部始終を見聞きしていたジュリエットはいまにも消え入りそうな声ながらも怒気に満ちた両目をラファエルへと向ける。
「結果としておまえが戦闘の主体を担うことになった。しかし共闘関係にあるからにはお前にも相応の危険負担があってしかるべきだ」
ラファエルは一歩一歩ジュリエットに近づいていった。その手にはまだレーザー銃が握られている。
「おまえの企みはわかっている」ジュリエットは虫の息で話す。「相討ちを理想像としていたはずだ。そうはならなかったとしてもどちらかが命を失い、片方が弱体化すればおまえにとってこれほど都合のいいことはない」
「いや、おまえは何もわかっていない」ラファエルはジュリエットを見下ろす位置で足をとめた。「おまえは心の透視を口にして私に警告を与えてはいたが、私との戦闘以外で私の心を透視したことは一度もない。本当に私の心を透視していたのならこういう事態にはなっていなかったはずだ。良心的であろうとする躊躇いがこの事態を招いた。躊躇いさえなければ早い段階でリリスを殺すこともできたはずだ」
「いまからでもおまえの心を透視することはできるんだぞ」
ジュリエットは苦痛に満ちた呼吸をしながらラファエルを睨みつけた。
「おまえは私と違ってブラフは苦手のようだな。いまのおまえに超能力を使える余裕があるとはとても思えないが」人工生命体は状況を冷静に告げた。「そろそろ立場が逆転したことを認めたらどうだ。おまえを生かすも殺すも私次第だ」
「…早く殺せよ」
それは超能力が使用できないのを認めることでもあった。
「リリスのようなセリフだな」ラファエルは冷笑を浮かべた。「自尊心を守るために死に急ぐ言葉を口にするのは間違っている。しかも大抵の場合、本心は言葉と逆のことが多い。愚かなことだ」
「おまえに慈悲は期待していないよ」
「その考えは間違っていない。私にそういう感情は無縁だからな。だが先にも言ったように私はおまえを裏切ってはいない。多少計画を修正したことは認めるがおまえという存在は必要なのだ」
「おまえの言葉は信用…できない」
ジュリエットは意識が遠のき初めるのを感じた。言葉を口にすることさえ辛く思える。とても眠い。
「言葉でおまえの信用を得ようとは思わない。おまえは私の行動を見て判断すればいい」
「おまえは陰謀の糸を何重にも…組み合わせているから、上辺だけの行動で信用…」
呂律のまわらなくなったジュリエットは数秒の間ラファエルを眺めるとガクッと顔を落として意識を失った。
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