第41話 過度の恐怖心は死を招く
工兵がゴーサインを示すとジュリエットはミルヴェーデン伍長に複座式機動歩兵<アミュコス>の前進を命じた。
操縦桿を握る部下の手が微かに震えているのは、工兵のトラップ除去作業結果を百%信じていないのと、実戦経験が初めてだというものによる。
それに…、とジュリエットは思う。
なぜ隊長機がエレベーターを使用する最初の機にならなければいけないのか…、と前席の部下は思っているにちがいない。いいかえればなぜ他の機に安全を確認させないのか、と。
超能力で心を透視しなくても部下の心情は手にとるように理解できた。
「隊長が模範を示さなければ部下はついてこないからな」
降下するエレベーターがいまにも爆弾トラップで破壊されはしないかと内心怯えているミルヴェーデンに、ジュリエットは疑問の答えを口にした。
「………」
内心の怯えを小隊長に見抜かれたことを知ったミルヴェーデンは火照るような恥ずかしさに何も言えなかった。
「実戦経験のある俺が同乗している。だからおまえは一人じゃない。必要以上に恐れるな。過度の恐怖心は死を招くぞ」
エレベーターが無事に地下第二層へと到着すると伍長はぎこちなく操縦桿を操作し、アミュコスを外へと移動させた。小隊の全機がここに集合するまで待機しなければならない。
ガチガチの緊張感から抜けきれずにいる部下にこのときばかりはアヴシャルの軽いノリが羨ましく思えるジュリエット。
おそらく第1小隊長だとこういう状況であるときには女の話題でも口にして部下の恐怖心を和らげるのであろう。
そういう気の利いたセリフをジュリエットは思いつかない。だがもっと効果的な方法はある。
超能力で感情を人為的にコントロールするのだ。
これは非常に効果的であり同時に卑劣な手段であることを彼は知っていた。だがこのような状況下においてそれが本当に許されないと言い切れるだろうか。
もしそれが部下の命を助けることにつながるのならば力を使用せずにむざむざ死に追い込むことの方がもっと許されないのではないのだろうか。
『偉大なる力には偉大なる義務が伴う』
これが本当に意味するところを自身がまだ悟っていないのをジュリエットはわきまえていた。
悪用しないという名目のもと何もしないことが正しいのか、あるいは人名救助の美名のもと自然の流れに反してでも人為的な操作をおこなうのが正しいのか。
いずれにしてもひとつだけ明らかな事実がある。
ラザフォードにてジュリエットはすでに超能力を使用しているのだ。侵入した子竜を捕獲するために。
彼は声なき溜息をつくと超能力を発動させるために精神を集中させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます