第42話 おまえは生きて地上に出ることはできない

「機動歩兵の第二弾、か…」


 地下第二層に集結しつつある機動歩兵の映像が監視システムを通じて次々と送られてくる。


「そろそろ我々も救出を受ける体制を整えるときだろうな」


 ラファエルの計画はいまのところ順調に進行していた。


 しかも高等弁務官という人質まで掌握している。


 あとは生き残りの研究員を演じて救出を受けるだけだ。ともにいる高等弁務官が自分たちを研究員と信じている限り彼女の口から出る言葉は地上の者たちを納得させるだろう。


『だが、あまりスムーズに救出を受ければ疑惑を招きかねない…やはり自作自演が必要かもしれんな』


「…また私の出番?」


 思考にふけるラファエルに脇でその様子を眺めていたリリスが声をかけた。


「おまえばかりに戦わせるのは心苦しいが機動歩兵を相手に本領を発揮してもらえるだろうか」ラファエルはリリスを見つめながら内心では別のことを考えていた。「今度の相手はアンドロイドよりも強力だから危険かもしれないが」


「あんなオモチャ、私の魔法の敵ではないわよ」


 自らの技量を力説するリリス。だがラファエルはまったく別のことを考えていた。


『…おまえは生きて地上に出ることはできない』


「すべての機動歩兵を破壊することはない。一機は残しておくんだ。我々のもとにまでたどりつく者がいなければ当たり前の話だが救出を受けることはできないからな。おまえにとっては最後の戦闘になるだろう」


「最後?」


「私の計画では残った一機が我々を地上へと救出することになる」ラファエルは肩をすくめてその冷ややかな態度にはそぐわない態度を示した。「そしておまえにはしばらくこの研究所内に隠れていてもらう。心配しなくてもいい。準備ができしだいおまえを迎えに行く」


 それが不可能なことはラファエル自身がよくわかっていた。だがそうでも言わない限りこのエルフは納得しないであろう。


 問題は他にもある。


 ラファエルが地上へと脱出するのに成功したとしても人工生命体であることに変わりがなければ、逃亡中であることにも変わりがない。


 それほど遠くへ逃げおおせない内に地下に隠れているリリスが捕獲されて、その口から彼の存在が暴露されればやっかいなことになる。


 リリスがかけがえのない存在でありえるのは、反乱を勃発させ地上に脱出するまでのことで、それ以降はラファエルの足を引っ張りかねない「不良債権」と化す。


 しかもこのエルフは感情の波にのまれるあまり何をしでかすか予想のつかない一面があり、口の堅さを信用するわけにはいかない。


 確実な方法で口を閉ざさなければいけない。


 それも永久に。


『…おまえは生きて地上に出ることはできない』


「今回は私も出よう」ラファエルは機動歩兵よりもリリスを処分する算段を考えながら席から立ち上がった。「彼らの反応を見てみたい」

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