第12話 モスクワ…?
「現場を確認されましたか? 本当に酷い事故でしたね」
モスクワ市警のグリシン警部は中央政府のお偉いさんを机越しに眺めていた。
「え~と…たしかお名前はミレア・ヴァレニウスさん、ですね」
事情聴取を受ける中央政府の女性官僚は弱々しい声で「ええ…」と答える。気に入らない、とグリシンは思った。中央から来る者は皆が地方を見下している。
思いしらせる絶好の機会だというのに、上層部がいらぬ配慮を示して豪華な応接室での取り調べだ。
こういう女はゴキブリかネズミの駆けずり回る取調室こそ相応しい。
「お体の調子はいかがですか? あれだけの事故でしたからね」
「私は特別何も…」
「そうですか。しかし相手方は体の半分をサイボーグ化しなければいけないようですよ。ご存知でしたか?」
「ええ…」
「あなたは助手席におられたので運転されていたわけではない。ですからこれはドライバーであったステパノフ氏の業務上過失傷害を捜査するための供述であることをご承知願いたい」
そう告げながらもグリシン警部は猜疑心に満ちた目をミレアへと向け、あたかも犯人を取り調べるようなオーラを隠そうともしなかった。
「しかしステパノフ大佐…いや、ステパノフ氏と中央政府の調整官があのような深夜に二人でドライブとは解せませんな。失礼だがお二人はどういう関係なのですか?」
うっすらと視界に入ったのは工具のようなもので自分の腕をいじる男の手。腕の皮膚の一部分がカバーのように開かれている。
「サイボーグ…」
ミレアが目を覚ましたばかりの弱々しい声で呟くと、男の工具を動かす手がピタリととまり彼女へと顔を向けた。
「ようやく目が覚めたか」
頸部の血管を圧迫されて意識を失ったところまでは覚えている。半ば死ぬことを覚悟していたのだがなぜか生きている。そして以前は殺気だっていた男の顔にはいまや笑顔らしきものが浮かんでいる。
無意識のうちにその場から立ち上がろうとすると両腕が何かに引っ張られて体が思うように動かない。よく見れば自分の両手に手錠がかけられ部屋の配管らしきものに固定されていた。
「すまないが、あんたを信用できないのでね。身動きがとれないようにしておいた」
手錠に驚くミレアに男はその事情を告げた。
立ち上がるのを諦めて元の姿勢にもどったミレアは次第に覚醒しつつある頭で状況を掌握すべく努めた。
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