第10話 地上の対応状況

「こいつは宇宙戦艦の装甲並み頑丈ですよ」


 第279工兵隊のコマツ工兵軍曹は防護扉の間近で上官に報告した。


「高出力レーザーで焼き切れそうか?」


 キム工兵曹長はお決まりの手段を口にする。


「同じ箇所を24時間ぶっ通しで照射すれば可能性がないわけではないですが、それよりも先にパワーパックがオーバーヒートしますよ。しかも人の出入りできる範囲を焼き切らなければいけないのですからこれはもう問題外ですね」


「ブラスター(熱線)では?」


「同じことですよ」


 キム曹長はどうしたものかと頭を悩ませながら防護扉を眺めた。二人の周囲では工兵たちが科学局員と共同作業で気密室を構築している最中であった。


「扉のロック制御機能に侵入して解除コードを探り当てるというのはどうだ?」


「これは内側から開閉をコントロールするタイプですよ。外側から制御機能に侵入するのは不可能ですね」


「だったら超小型核兵器でも使うか」


 キムは冗談のつもりで言ったのだがコマツは真面目に受け取っていた。


「耐爆性もかなりのものだと思われます。それに核だと都市への影響が…」


 やれやれ、とキムは思った。どうもこの男は冗談に対するノリが悪すぎる。


「ではこの研究所は永久に閉ざされたままというわけか」


「自分には何とも…ただ、プラズマ砲であれば少しは可能性があるのではないのかと」






「防護扉の突破にはあとどのくらい時間がかかりそうですか?」


 フェレイロ副高等弁務官が深夜帯にまで執務室に存在するというのは初めての出来事であった。


 基本的に高等弁務官府での深夜残業は平の職員から課長クラスまでで、局長以上の者が深夜にまで存在するというのは…現民政局長を除き…ありえないことなのだ。


 要するにいまはそれだけ非常事態だということになる。


「現地調査での結果、防護扉の切断には高出力レーザーでは不可能なことが判明し、解決手段としてプラズマを用いることになりました。科学局の研究施設から借用したプラズマ装置をもって切断作業をおこないます。予定ではあと一時間ほどで作業の実行に着手できます」


 防衛軍司令のリー准将は部下から報告のあった事項を淀みなく報告する。隣りに立つ軍務局長はすべて司令に任せきりで一言も喋ろうとはしない。


 フェレイロはミレアと同様にこの局長の能力を承知していたのでこの非常時に質問・叱責で時間を浪費するような真似はしなかった。


「プラズマ…ですか」


「軍の兵器としても最近実用化されたばかりですが、ラザフォード駐留軍にはまだ配備されておりません。ここはミスティアルのような敵対勢力に隣接しているわけではないので最新兵器を優先配備する必要性が低いからです。そのため軍としては科学局施設にあるプラズマ発生装置を改造して用いることになりました」


「防護扉の切断後は計画通りの行動をおこなうということですね」


「当初の行動計画通りに軍用アンドロイドを…正確には偵察型のアンドロイドですが、それを所内に突入させて内部の状況把握に努めます。またそれと並行しまして他の地上出入口防護扉の切断作業にとりかかります」


 防護扉の切断に手間取り当初の行動計画予定が時間的な遅れをもたらしているものの、防衛軍司令の報告を耳にする限りではプラズマを使用さえすれば後は予定通りに進展するような口ぶりに聞こえる。


「とりあえずは扉の切断が上手くいくことを祈るしかないですね。会議のときに科学局長が発言したようにバイオハザードの危険性もありますので汚染対策は万全にお願いします」

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