第2話 超能力者にとって憲兵隊は鬼門

『申し訳ないね、ルクレール少尉…隊本部に間違って配送された文書を憲兵隊まで届けてもらいたいんだ』


『文書…ですか?』


『宛先をロクに確認しないまま開封してしまったみたいでね。中身は憲兵隊長宛の注意扱い文書なんだ。いや、なにも隊長本人に渡す必要はないんだよ。受付の憲兵に手渡して事情をよく説明してから戻ってくればいいから』


『それなら開封した本人に行かせた方が事情を説明しやすいと思いますが』


『小隊長クラスが行けば向こうも納得してくれるだろうからね』


 セントラルエリアを歩くジュリエットの脳裏には、体よく厄介事を押しつけられた経緯が記録映像のように横切っていた。来たばかりで何も知らない新参者に面倒事を押しつけるという…古今東西どこにでもあることが、ここラザフォードにもあるということだ。


「それほど重要な文書なのかな?」


 右手に握られたアタッシュケースを眺めながら心のなかで首を傾げる。ケースを開けて文書を読むのは簡単だが、知らなくてもいいことを知ってしまったために更なるトラブルに巻き込まれるのはご免被りたかった。


「…それにしても異様に憲兵を恐れているな」


 むろん軍人であれば誰しも軍警察たる憲兵には関わりたくないだろう。ラザフォードに来てまだそれほど日が経っていないのでここの世情は無知に等しかったが、少なくとも彼の所属部隊内には憲兵の二文字が出るだけで何やら重苦しい雰囲気が自然と醸成されるのだ。


 実際のところはジュリエット自身も憲兵を恐れていた。


 なぜか?


 それは軍内部における超能力者の摘発は憲兵隊の任務だからである。それゆえ文書を開封したことに対する叱責よりも、自身が超能力者であることを察知される危険を彼は恐れていた。


 むろん憲兵の目前でそれとわかる形で超能力を使用しなければ発覚する恐れは限りなくゼロに近いだろう。が、あまり気分のいいものではない。


「もっと前向きにならなければいけないか、な」


 あるいは憲兵隊本部の内部事情を伺うことができる絶好の機会なのかもしれない。


 ラザフォードの中心にそびえ立つ高等弁務官府正面にまで来ると、場所柄なのか文官服を纏った男女がやたらに目につく。どちらかといえば軍服の彼は目立つ存在であった。


「え~と…憲兵隊本部はどこなのかな?」


『高等弁務官府の隣りだから…行けばすぐにわかるよ』という上官の言葉を信じて来たものの、隣りといってもどちら側の建物なのか検討もつかなかった。憲兵が入口に立哨している場所を想像していたが、それらしきところは見あたらない。


 困ったときの「何とか検索」…あるいは、通行人に訊ねた方が早いのだろうか。

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