「……銅鑼どら。そんなのあったっけ?」

 呼び鈴ではなく銅鑼どらと書いてある札を下げに行き、何気に見てみれば、店先の庇の下に小さめだが銅鑼どらがありその横に紐でばちが吊るしてあるのが見える。

銅鑼どらってあれの事か」

 あれで呼び出されるのかと思うと、なんだかマヌケなような気がする。

 さらに、あれで呼び出そうと叩く方にも勇気がいるな、と少し吹き出すように笑って居住スペースの方へ向かった。

「さて、さっさと作ってしまわないとな」

 大きな炊飯器を開ければ、今朝炊かれたばかりの白飯が姿を見せる。

 此処の炊飯器は、バイキングなど店舗でしか見たことがない大きな炊飯器だった。

 一人暮らしであるのにこんなに大きい必要があるのかと尊に聞けば、

「いちいち炊くのは面倒だろう。一回で済ませればいいじゃないか」

 と返ってきた。

 大量に炊かれた米は、小さめの冷凍用タッパーに詰められて、2つあるうちの一つの冷凍庫にしまわれる。

 この台所には大きな業務用の冷蔵庫と冷凍庫があり、それによって買い物数を減らすことを可能にしているのだ。

 山積みダンボール箱が少なくなり以前よりは動きやすくなった台所で、昼食の準備を始める。

 ミックスベジタブルを使った玉子チャーハンと、鶏ガラスープの素を使った玉ねぎの中華風スープ。

 玉ねぎや人参、じゃがいもといった結構よく使う野菜については、それぞれ使う形に切りフリーザーバッグに入れて凍らしてある。

 そのため、出来上がりまでそう時間はかからず、少々時間が出来た知哉ともやみことが来るまでと台所の掃除をしはじめた。

 暫くして十二時を知らせる柱時計の音が鳴り響き、鐘の音が最後の一つを鳴らし終わると同時にみことが顔を出す。

「ふむ、中々旨そうな香りが漂っているな」

 みことの声が聞こえて、掃除をしていた知哉ともやはその手をとめ、手を洗った後、食事を座卓へと運んだ。

「本当に十二時ちょうどとは、時間に正確ですね」

「他人に時間厳守を言い渡しておいて自分は守らないとかありえないだろ」

 当たり前のことを聞くなと言わんばかりに言ってのけた尊に知哉は小さく微笑んだ。

 今まで知哉の周りに居た人で他人は駄目だが自分は良いと言う連中が何人かいてそのたびに少々苛立ちを覚えていた。

 それほど几帳面というわけではないし、神経質でもないが、やはり他者に強要しておきながら、自分は同じことをしてもいいと思っている態度は好きではない。

 それが雇い主でありこれから同居していく人であれば余計に気になったことだろう。

みことさんはそう言う所はきちんとしている人みたいだ。よかった)

 少し安堵したような嬉しい気持ちになって微笑んだ知哉ともやを気にすることなく、みことは両手を合わせて「いただきます」と言って食事を始めた。

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