一瞬迷ったがここが何処かもわからない状況ではどうすることもできないだろうと、しぶしぶ乗り込んで何の会話もなく自分が住み込む新聞屋にたどり着く。

 ちゃんと送ってくれたのかとほっと安堵の息を吐いて車を降りた辻堂つじどう

 遅くなったことを雇い主に謝罪し、自分の部屋の布団に倒れ込んだ。


 次の日。

 昨日の事はまるで夢のような出来事でそれは夢じゃないかと思ったが窓の外に仮面の男の姿を見て夢ではなかったのだと認識した。

 しかしどう考えても瑞葉みずはの言っていたことは現実離れしすぎているし、信じたとしてもあの瑞葉みずはの下で働くのはどうも気が乗らない。

 仕事をこなしながら一体どうすればいいのか一日考えても全く答えが見つからなかった。

 当然金銭面で考えれば迷うことは無いのだが、内容を思い出すほどにそれは金額で決めていい事では無いような気がして仕方がない。

「一体どうすればいいんだ」

 返事までの日にちは有るものの結局は同じように悩んで期日を迎えそうで溜息をついた瞬間、何故か辻堂つじどうの頭の中に一人の友人の顔が思い浮かんだ。

 自分が高校生になりその土地を出ていくまでの、幼い頃からの友人。

 今では年賀状でのやり取り位しかないのに思い浮かんだその友人は、幾人もいる友人の中でこのような現実離れをした話をきちんと聞いてくれそうなたった一人だと妙に納得してしまい、彼になら相談できるかもしれないと辻堂つじどうは思った。

 その友人は祖父同士が知り合いということで知り合った。

 が、近所の校区内であったのに学校で出会ったことは一度もない、今考えれば不思議な友人だった。苗字も道祖土と書いて「さいど」と読むとても珍しい名前。

 部屋の中をひっくり返すようにして年賀状を探し始める。

 今年は実家に帰省していないので年賀状を受け取っておらず、手元にあったのは去年の道祖土さいどあきらからの年賀状。

 去年の物の為住所が変わっていないことを願いながら、休みであった次の日に土産の水まんじゅうを手に出掛けて行った。

 数年ぶりに電車とバスを乗り継いでやってきた街は、以前よりも空き家が増えたような気がした。

 年賀状でのやり取りがあるとはいえ、年に一度の事。

 突然思いついてやってきたうえに変な相談をすると嫌がられるかもしれないと辻堂つじどうは少々ため息をついてその家の前に立った。

 インタホンが無く、どうしようかと迷っていると突然目の前の玄関扉が開いて自分とは全く正反対の骨と皮だけで真っ白な肌をした男が現れる。

 そしてその男は無表情のまま、

「いらっしゃい、辻堂つじどう

 と出迎えた。

 まるで辻堂つじどうが今日来ることが分かっていたような口ぶりで迎え入れ、玄関を閉めて辻堂に廊下の突き当たりの部屋に行くように指示した。

 言われるままにやってきた部屋はカーテンが閉め切られ薄暗く、片付けはあまりしていないように見えたが、座卓の近くに一枚だけ周りよりは綺麗な座布団が敷いてある。

 恐らくここに座れと言う事なのだろうと腰を下ろせば目の前に道祖土さいどが座りながらペットボトルのお茶をそのまま出した。

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