「大きい体なのに肝は小さいのね。まぁいいわ。アスラ、放してあげて頂戴」

 瑞葉みずはは溜息をつきながら言い放ち、上体を起こしてソファーに腰かけ足を組めば柔らかく軽やかな布がずれて白い足が姿を現し足首が上下に動く。

 言葉を発していないし、何かをされているわけでもないのに辻堂つじどうの体はその動きに合わせるように椅子から離れ、瑞葉みずはの足元までやってきて正座をした。

 酷く高圧的で従いたくなくとも従ってしまう様な雰囲気を放つ瑞葉みずは

 辻堂つじどうもまたその命令に逆らうことが出来ず、瑞葉みずはの目の前に正座してしまったのだ。

 ただ、そんな瑞葉みずはの態度をアスラは怪訝な表情で見つめ「またそのように」と、何かしらの文句を吐き出しかけたが瑞葉みずはの言葉がそれを遮る。

「さて、早速お話しましょうか」

 瑞葉みずはがそう言って指を鳴らせば、言葉を遮られたアスラが致し方ないと言う態度で瑞葉みずはに書類の様な紙を数枚渡した。

 受け取った瑞葉みずははそのうちの二枚を手にあとは全て床に放り投げて、二枚の内の細長い他の紙とは形の違うものを辻堂つじどうの膝の上に置く。

 辻堂は身体が動かず視線だけを動かしてその紙を見つめた。

 別に体を拘束されているわけではないし、動かそうと思えば動くはず。

 しかし、何故か頭の中心を押さえつけられたような圧迫感があり手足に上手く指示が伝わらない。

 しかも座っているだけなのに時間が経つほどに激しい運動をしたような息遣いになり胸が苦しくなってくる。

 瑞葉みずはは唇の端を少しだけ引き上げ笑みを浮かべて少しもだえるように体を動かそうとしている辻堂つじどうに言った。

「貴方はね、ちょっと特別なの。特別だから長い時間此処にいると苦しくなってきちゃうのよ。だから手短にその紙切れについて話すわね」

 瑞葉みずはは先ほど膝の上に置いた紙を指さし、しっかりみなさいと言う。

 辻堂つじどうは動かない頭を何とか動かし、膝の上の紙を眺めてみればそこには指さし確認で数えなければ信じられない、そして辻堂つじどうが見たこともない数字が書かれ、数字の頭には¥のマークがしるされていた。

 どうしてこんな金額がこの紙に書かれているのか、そしてそれを何故自分の膝の上に置いたのか、辻堂つじどうは酷い頭痛を抱えているような気持ちの中、意識を戻す為に口内を噛み締め痛みを走らせる。

 痛さで少しの意識が戻ってきても瑞葉みずはの唐突な行動の意味は全く分からず、眉を顰めていれば瑞葉みずは辻堂つじどうの膝にさらにもう一枚の紙を滑らせるように投げた。

「貴方、このお金であたしの部下になりなさい。そしてこれに拇印を押してちょうだい」

 一体今度は何を言い出したのかと辻堂つじどうは瞳を見開き、噛み締めていた口を開く。新聞配達員の引き抜きなど聞いたことが無い。

 しかもこの法外な、どこぞの人気で有名な野球選手の年俸のような金額に辻堂つじどうは嫌でも呆けてしまいそして怪しみ顔をゆがませた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る