体育座りの放課後
よしのめる
1.結ばれた髪
ぼくらは幾度となくハサミで紙を切ってきた。
紙だけでなく、伸びてくれば自分の一部である髪の毛を切るし、鼻毛に至っては切って短くしておかないと清潔感がないとさえいわれるのだ。
体毛は世間一般的に短いほうが衛生的によいとされており、切られるものは何の抵抗もしようがないし、そこに一種の断末魔のような悲鳴が聞こえることはない。
当たり前だ。
生物的な意志をもったものたちではないんだから。
ぼくが中三の時、初めて髪から悲鳴が聞こえた。
美容師さんに切られた髪たちからではもちろんない。
友達に切られた髪からだ。
シャキッというハサミの金属音が脳裏に何回も反芻する。
頭蓋骨を反響していく内に音像がぼやけていくのが分かった。
床に落ちた髪は泣いていた(ように見えた)。
ぼくの髪を結んでいた輪ゴムは少し経ってもぼくの髪に垂れ下がっていた。
正気の沙汰ではないと思った。
目の前では何人かの女子が細い目をしてぼくを見ていた。
涙で机の輪郭がぼやけていると分かった。
学校で泣いたのは初めてだった。
体育座りの放課後 よしのめる @merurururu
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