世界が真っ暗な中 僕たちは進む
ゆゆさくら
お金がなくて世界が真っ暗
「パパ!今日もありがとう!また今度よろしくね!」
「わかったよ朱里ちゃん。楽しみにしてるよ。私たちの相性はばっちりだからね。」
「ふぅ。学校行くか。」
私の名前は朱里。さっきまで喋っていたのはパパ―本物じゃないけどね。
私は社員300人の会社を経営している両親のもとに産まれた。小さいころ、私は何一つ不自由のない生活をしていた。しかし、私が6歳の頃、世界的な不況が起こり、両親の会社はそれに耐えることが出来ず倒産。多額の借金を抱えた両親は二人で夜逃げ。私は父の姉である伯母の家に預けられた。しかしそこにあったのは残酷な現実。
私に冷たく食事は3日に1回、お風呂は1週間に1回、服はよれよれのTシャツ1枚のみの伯母。両親のことをバカにしてくる従弟。暴力をふるう伯父。それに耐えきれなくなった私は児童相談所へ。しかしそこでも全然取り合ってもらえず家に帰されまた過酷な毎日。
それに気づいてくれたのは私が小学校4年生の時の担任の先生。私のために動いて下さり前回は何もしてくれなかった児童相談所が私を施設に入れてくれた。
施設の両親(役)は非常に優しく、初めて私を見たときは辛かったね、と一緒に泣いてくれた。そうして私は無事に義務教育を修めることができた。
しかしまたも悲劇が起こった。私が高校に入学してすぐ施設で火事が。命に別状はなかったものの施設は全焼。行政も最低限の生活援助しかしてくれず私はたちまち生活困難に陥った。
身元の保証人もおらず、中卒の私に不況の社会での居場所はなかった。残された私には体を売ることしか残されていなかった。
幸い私はスタイルがかなりよかった。夜の繁華街を歩くだけですぐにスカウトが入った。
まだ高校1年生であること、頼れる人が誰もいないこと、働かないと生きていけないことなどを話すと部屋の1室を格安で貸してくれることになった。もちろん私がここで働くという前提で。店長さんが優しい人だというのもある意味救いだったのだろう。後から聞いたところ、自分も昔そういうことがあったそうで近所の人のサポートでここまでこれたそうな。お金をとらないとやっていけない自分の不甲斐なさを謝られた。
そんなわけでここで働き始めた私だったがいいものではなかった。
学校にばれたら即退学。友達と遊べるような余裕もなく世の中の学生が青春を楽しんでいるとき、私は性行為に励んでいた。もちろん体を売ることがいいわけでもない。慣れたら気持ちいいと言うがあれはまっぴらの嘘だ。好きでもない人に抱かれて気持ちいいわけがない。毎日を生きるのが辛かった。周りのクラスメイトみたいに勉強して、放課後寄り道して、バカやって、彼氏作ってデートして、趣味を謳歌して、部活で全国めざして。そんな生活をしたかった。毎日抱かれながら涙を流していた。その涙が別料金だと思われたのか、少しお金を貰えるのは嬉しかったが。
そんな毎日を過ごしていた。そう、あの日までは。
ある日、私はいつものように働き先に入っていった。そこを見られているとも知らずに。
次の日、私は放課後屋上に呼び出された。そこにはクラスメイトの男子がいた。
彼は言った。お前、体売って働いているんだろ、と。
バレてしまった。一番バレてはいけない人に。
彼は醜い笑いを見せ、このことを黙ってほしかったら俺の言うことを聞け、と。
そこからはまた地獄の日々だった。暇な時間があるとすぐに彼に呼び出された。暴力、パシリ、性処理。もはや私に人権などなかった。
耐えきれなかった。そして一番考えてはいけないことを考えてしまった。私は生きている価値がないのではないか、と。そしてしばらくたったある日の放課後、私は学校の昔私が住んでいた家に来ていた。建物は人が住んではいなかったが綺麗なまま残っていた。考えてみたらここから始まったんだ。あいつらのせいで。あいつらがもっとしっかりしていたら。今まで矯めていた全ての思いが一気に吐き出された。次の瞬間、私は倒れていた。
「朱里ちゃん、大丈夫かい?」
そう言われて目を開けると店長さんが私の顔をじっと見つめていた。
学校からなかなか帰ってこないので心配していたところ病院から電話が入ったとのこと。
すでに我慢ができなくなっていた私は店長さんに全て洗いざらい吐いた。
今まで誰にも言えなかったようなこと、言ってはいけないこと、八つ当たり。店長さんはそれを全部受け止めてくれた。何も言わずに私を抱きしめて頭を撫でてくれた。それはパパたちの色欲が詰まった愛撫と違い本気で私を心配してくれる優しい撫でだった。私は数年ぶりに愛情というものを感じた。
その後の店長さんは私の学校に直談判をし、その男子生徒は退学。私の身売りは店長さんが誤魔化してくれた。しかもお金に余裕ができ経営規模の拡大に成功した店長さんが大学までうちに住んでいいとまで言ってくれ、それ以降は誰かに体を売るということはしなかった。
大学を卒業し、私は無事に内定を得てとある会社に働くこととなった。
「朱里と申します。店長さん、今までありがとうございました。そしてこれからよろしくお願いします!」
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