第20話 おっさん友達が出来る

 王都の生活も慣れ、飲み屋に何度も顔を出していると、常連さんと話すことも増えていた。


「おう、ドラゴンと戦ったんだって?」


「いや、襲われただけです」


「襲われて生きて帰ってくるだけで大したもんだ」


 ドラゴンと戦ったことで、ある程度有名になっていたので、だいたいこんな感じで掴みはオッケーだ。


 この国では、ドラゴンが現れる事自体がほとんどなく、現れた時はカルナッツさんのような国で最強クラスの人が出向く。

  

 そんな飲み屋でとても話の合うおっさんと出くわしたのは、二週間ほど前のランクがDに上がって二、三日後だったと思う。


「おお、お前がドラゴンを退治したという噂の」


 大きな声でそう叫ぶおっさん。

 いや。俺もおっさんだけれど、俺のような文化系とは違って、体育会系のおっさんとでもいうのだろうか。


「襲われていただけで、倒したのは竜騎士のシュウトという人ですよ」


「なに、竜騎士と一緒に戦ったのか?」


「ええ、まあ」


「そいつはまた凄い!奢らせてくれ。」


 そう言って奢ってくれる。なんともダンディーなお方で、名前はポーロと言った。


 そんなポーロと、月光草イベントが終わり久々に飲み屋で会った。

 ここの飲み屋は、シンとは来ない。

 一人で飲みたい時に来る店だ。


「おい、知っているか?お姫様が冒険者になったって噂。しかも『忌み嫌われの姫』らしいぜ」


「へえ、そうなんですね」


 生意気ですけどね。なんて決して言わない。

 俺は聞く専だ。余計なことには口を挟まない。


「まあ、彼女も大変だよな。誰が仕組んだのか分からないが、根が深いよな」


「どういうことだ」


 ポーロは俺の反応に驚く。ちょっと反応しすぎたか。


「いや。まあ色んな噂があるけれど、結局誰得なんだって言う話だよなあの呪いは」


 確かに、俺もそれが気になっていた。なんとなく、第二妃一派の戦略か何かだと勝手に思っていた。所謂世継ぎ騒動かなと。


「知っていると思うが、あそこの国は国王、教皇、首相の三人のトップがいて、その中でも特に国王の権限が強かった」


 うん、知らなかった。それぞれの国の歴史も勉強しなきゃな。


「それで?」


「かつては王様が一番権力があったのだが、今では教皇が一番権力を持っている」


 そうか、そんなことが。

 だから、セリアも冒険者になったとはいえ、教会堂へよく出入りしているのだろうか。関係ないかな?


「そして、国王の力が弱まると共に軍事力が下がった」


「え?」


「その間に力をつけたのが、グラスダ王国」


「グラスダ王国って、北西の?」 


「ほかにどこがあるんだ?」


 図書館で見た世界地図で知ったのだが、ダルン王国は東西に伸びて二つに分かれた島国で、王都はその西端の方にある。その北には西からグラスダ王国、ミノワ王国、サミノ共和国という島国が乗っかっている形になる。


 ちなみに竜の国サントロ王国は、ずっと西の大陸。キルヒス教国は更にずっと北のまた別の大陸で、その間に魔法王国シンワがある。


「グラスダ王国は、魔王を倒したパーティの一人、魔法戦士イズキが軍に入ってから急速に軍事力を伸ばし始めた」


「それは、対魔物や対魔王軍のためでは?」


「もちろんそれもあるだろう。けど、その後グラスダ王国と、その他の国とでは少しずつではあるが不平等な条約を結ばされている」


「それとキルヒス教国の呪いとどういう関係が」


「その、軍事拡大に一番反対したのがそのキルヒスの王様だったんだ、早い段階での反対に、イズキはだいぶ頭にきていたらしい」


「その、腹いせに?そんなバカな」


「ワッハッハ!」


 ポーロは豪快に笑うと続ける。


「まあ、ただイズキは結構な野心家みたいだからな。新しく飛空艇団も作ったらしいし」


「飛空艇!」


「おう。空飛ぶ船だ。もっともこの国は反飛空艇派だからないがな」


 飛空艇があるとは!

 欲しい!


 絶対高いだろうな。それを操作する人も雇わないといけないとしたら、その人件費も大分かかるだろう。


 個人では無理か?


 しかし、さすが王女さまだ。

 苦労の絶えない奴だ。もはや敵がどれだかも分からないとは。


 しかし、大きな目標ができたかもしれない。飛空艇をゲットする。あとは呪いのことを調べるというのも一応。


 そういえば、そろそろ他の国に行くかな。

 まだまだ読みたい本はあるけれど、飛空艇のある国は、発展しているだろう。


 次は、グラスダ王国でも行ってみるかな。少なくともどうやって行けるか調べないとな。


 冒険者という割に本読んでばかりだ。


 次の日も飲み屋でポーロに会う。

 しっかり肝臓の治癒の仕方も勉強しておかなければ。肝臓回復魔法ウコンとかあればすぐに覚えよう。


「ようムネハル!」


ポーロが声をかけてくる。俺がくる時毎日いるけれど一体なにをしているのだろうか。


「おう、ポーロ!」


 なんだかもうポーロ相手に敬語が面倒になっていた。きっともう友達だから大丈夫だろう。

  

 勝手にそう思う。こういうのは思ったもの勝ちだ。

 

 俺は隣に座ると、とりあえずエールを一杯飲み干してジャガイモにたっぷりチーズとベーコンが乗ったつまみを頼む。


「ちょっと聞きたいんだが、グラスダ王国へ行くにはどうするのが一番早いんだ?」


「なんだ?グラスダ王国か?いつもなら西のデリア港から船が出ていたが、今はどうだろうな」


「なんだ、なんかあるのか?」


「最近ダルン人を入国拒否しているみたいなんだ。冒険者すら、ダルンからは行けないかもしれない」


まじか、なんかもっと自由に色んなところへ行けると思っていたが、そうでもないらしい。


「それにどうやら、グラスダはミノワを攻めるらしい」


「え?」


 まあ、そういうこともあるのか。 

 その時はそう思っただけだった。


 

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