第1話 ムラサキ君のありがちな一日のはじまり

***


共通星間歴834年2月30日

記述者 ムラサキ・シグレ


 …えー、現在共通時22時です。

 皆さんはまだ宴会の最中です。

 さすがに僕の私室まではあの騒ぎっぷりは聞こえてきませんが、耳にはまだ残ってます。

 船長が、僕に向かってあの口調で、


「いや今日彼、『日誌』の当番なんですよ」


 と言ってくれなかったら、きっとずっとあの渦の中で、「僕の明日は一体何処だ」という状態になっていたことでしょう。

 何せ、この海賊船(船長は「銀河の流れ者」であって海賊じゃあない、と主張してますが)ルーシッドリ・ラスタ号では、「航海日誌」を「その日中に」「必ず」つけること「だけ」は決まりなんですから。

 実際僕は、この船で、他に決まりなんか見たことも聞いたこともありません。

 そういう意味では、あの中から出させてくれただけでも船長に感謝しなくてはならないんでしょうが…

 …正直、今僕は、結構、複雑な心境です。

 僕は確かこれで日誌当番もなんですが、どうしてこんなに僕の時ばかりトラブルが起こるんでしょう?  僕は故郷の神様と厄よけ様と鎮守様と運命を、総まとめにして時々呪いたくなります。

 しかも船長ときたら、宴会の中でも忘れずに、こう付け足してくれました。いつもの通り、あの穏やかそうな凶悪な笑みを満面にたたえて。


「ムラサキ君、キミは一応この船では奴隷の身分だからね」


 そうです。僕は奴隷なんです。それは本当に、よぉく判っています。


「だから、他の連中のように、日誌を適当に書いて終わらせようなんて、もってのほかだからね」


 はいはいそれも判ります。


「ですから、せっかく今日は、楽しいこともあったんだし、キミが見たこと思ったことを、初めてこの日誌を見たひとでも判るように、はっきりくっきり詳しく書きなさいね」


 …もう何度も何度も言われているので、耳にタコが出来てる程です。

 でもさすがに今日の僕は違います。酒の勢いが入っているせいでしょうか。言い返しましたよ。


「でも船長、僕時々思うんですが、一体誰が『初めて』読んだりするんですか?」


 だってそうでしょう? 「海賊船の航海日誌」をクルー以外の誰が読んだりするんですか。

 すると船長はあっさりとこう言いました。


「そりゃあもちろん、後世の歴史家に決まってるじゃないですか」


 何を当然のことを、と言わんがばかりの口調に、僕はもう、それ以上の反論はできなかったです。はい。

 ええまあ、僕が何を思ってどう感想書こうが、これが「日誌」である以上、船長は僕の安全は保障してくれると言いましたけど…


「あ、それからムラサキ君、いつも詳しく細かく書いてくれるのは嬉しいんだけど、いちいちクルーに敬称つけると、読んでて鬱陶しいし、これはあくまで記録なんだから、殊更に丁寧な言葉使って書く必要は無いからね」


「は、はあ…」

「あ、それは言えるよなー」

「そぉよねー。ムラサキのって面白いけど、何っか湿っぽくてやーよ」

「文章は簡潔なのが一番だ」


 皆まで口々に言いました。僕は学校時代の作文の授業を受けた時のことを思い出してしまいました。

 ああいけません。これ以上言うと、どんどん僕の愚痴になります。

 とにかく起きたこと思ったことを書くのが今日の当番としての、奴隷の僕の仕事ですから…

 と言う訳で、以下は敬称略・できるだけ湿っぽくない文章を心がけてみようと思います。


 …湿っぽくなったら、すみません…


**


 とにかく今日は、朝から変だった。

 と言っても、僕にしてみれば、朝というのは忙しい時間と決まってるので、あまり周囲のことに気を配ってる暇も無い。

 まず朝起きたらしなくてはならないことと言えば、「洗濯」だ。

 共通の洗濯もの置場がある。そこには持ち主の名札をつけたかごがあって、使用済みのシーツやタオル、時にはTシャツや下着といったものが入れられる。

 無論女性は、細かいものもあるし、自分で洗濯する。

 だけど男性はもう適当で、下手すると自分のかご、という意識すらない。それで僕は後で分ける時に「お前これオレのじゃねーぞ!」などと怒鳴られたりするのもしょっちゅうなのだ。

 まあさすがに最近は、サイズとか好みとかも違いが判ってきたから、いいけど…

 そう、洗濯そのものはいい。機械に突っ込んでおけば、洗い上げから乾燥まで一気にやってくれる。だから僕が担当しているのは、そのより分けくらいなものだ。


 その作業が終わった頃、食堂からクルーの半分が出て来るのがいつもなら見える。で、僕も一段落、とばかりに、食事を摂るのだけど… 何か今日は様子が変で。

 何よりまず、あのおかみさんの料理の匂いがしなかった。

 そして、いつもだったらもう、食事を終えて出て行っているはずの「頼れる黒い巨人」アリや、パイロット三人組がテーブルに「まだ」居たりいて。

 何かあったのかな、とは思った。でもおかみさんがもしかして寝坊したってことも(失礼)あり得る訳だし、と僕は残りの朝の仕事を一気に済ませてしまおう、と食堂を後にしたのだ。


 残りの仕事は、掃除だ。

 無論、クルー十二人、皆それぞれの私室(船長と隊長は同室だけど)に、メカニクルのクリーナー(通称ゾウリ虫)は装備されている。

 でも船の中は広くて、共同部分も実のところ、結構多いのだ。食堂とか、共同のトイレとか、ホログラムルームとか、船橋とか廊下とか…

 ま、それでもそれなりに、ゾウリ虫はあちこちにあるので、船橋とか食堂は、僕が来る前にも、気がついたひとが時々動かしてた様らしい。

 でも、その一方で、全く動かしたことの無い区域もあった様で…皆が皆、もう「そう言えばそうだっけなー」という顔をしたので、何か…つい…

 仕方ないと言えば仕方ない。僕はこの船に拾われる直前まで居た輸送会社でも、大掃除になるとつい、いつの間にか仕切ってしまうことが多かったのだ。

 や、別にそれを悔やんではいない。でも今となってしまっては、思いかげないこの広さに、プロフェッサーの「ほこりじゃ人間は死なん」という主張を受け入れたい。でも、おかみさんの「あんたがやってくれるから助かるよ」という言葉にも勝てないし。


 で、まあ全部のゾウリ虫に指令して、収拾がついたところで時計を見ると―――10時25分!

 さすがに僕も慌てた。ラスタ号の朝食の最終時限は十時半なのだ。それに遅れると、お昼まで我慢しなくてはならない。

 他のクルーなら、あちこちで買い込んだ保存菓子とか、部屋にため込んでるだろうけど、この船に乗り込んで以来、何処にも(事件以外で)停泊していない僕としては、きちんとした食事が唯一のエネルギー補給源なのだ。

 慌てて僕は、食堂に向かった。すると。


 何か様子が変だった。


 無闇やたらに広くて装飾過多で豪華なこの食堂の床を、両手をポケットに突っ込んだボマーが、うろうろとずっと同じ所を回っていた。僕は思わず回数を数えようかと思ったけど、何か目が回りそうになったので止した。

 でもそのまま、彼のあのごつい靴で続けたら、足元のふかふかの絨毯(僕はこの感触は好きなのだ)が、丸くすり減ったりしないか、と不安になってしまったのも確かだ。

 そして彼は突然ぴた、と足を止めて言った。


「やっぱり、妙だぜ」


 妙なのはボマーの方だと思う。と言うか、皆妙だった。

 さっきはパイロット組の王子とミハイルとナヴィ、それにアリと四人だけだったけど、テーブルには更にドクターとフランドの女性組もついていて、言葉を交わす訳でもなく、何やらじっと考え込んでいたのだ。

 さすがに僕も、この状況に答えが欲しくなって、問いかけた。


「あ、あの… どうしたんですか? 皆さん」

「ああ?」


 ボマーは逆立てたオレンジ色の髪をぶん、と振り回し、両手を大きく広げると、僕に向かって怒鳴りつけた。


「ムラサキお前よ、この様子を見て、何も思わねえのかよ!」


 そりゃ、思うけど。

 ただあまりの剣幕に、何も言えなかった。

 そこへ不意にすっ、と扉が開く。


「おやお揃いで。どうしました? 皆さん」


 船長が、にこにこしながら両手を後ろで組んで入ってきた。僕と大して変わらない内容の問いかけというのに、どうしてこんな脳天気な声なんだろう。

 その後から隊長が、のっそりと入って来た。うわ、と僕はその全身からみなぎる「オレは眠いんだこのやろ寝かせやがれ」オーラに思わず数歩下がった。

 細身で小柄な隊長が視界に入った瞬間、僕は思わず目を逸らした。それでも強烈なものというものは、印象を残すものだ。何だってこのひとは、極悪な程の気配を漂わす時というのは、逆に凶悪に綺麗なんだろうか。

 いや僕にはその気はない。だってそうだ。僕がそもそもこの船に乗り込んだのは、ホモ好きの野郎のとこから逃げ出してきたことがきっかけなんだから。

 まあ僕のことは今はどうでもいい。そう、ともかく隊長だ。

 彼はいつも以上に伏し目がちだった。すると、もともと大きくて形も良くて、しかもまつげも濃くて長いその目は、伏せるとその陰影が天然のアイシャドウになって、実に強烈な印象を与える。何って言うか、そう、俳優… ああ、どっちかというと、女優の目に近い。モノクロ・スクリーンによく映える。「そのシュミ」がある奴だったら絶対、その一見物憂げな表情一発で、殺せると思う。

 しかし無論、この船のクルーはそんなことじゃあ、殺されやしない訳で。

 まずはフランドが椅子に大きく寄りかかり、長い腕と足を組みながら、呆れた様に言った。


「…あんた達、遅いわよ!」


 このひとの足も、なかなか僕にとっては目の毒なのだ。や、正直、服もそうだ。お願いだから、胸の谷間はもう少し隠してくれ、って感じだ。そりゃもちろん見えるのは嬉しいけど… 困ってしまうのだ。

 そんな僕を、彼女はチェリーボーイだと言ってからかうのだが…事実なので何も言えない…(どうせ後で追求されるくらいならここに書いておく!! 僕は童貞だ文句あっか!)


「おやフラン、おはようございます」


 そして、「そんな時期」はお母さんのお腹の中に忘れてきたんじゃないか、という船長は、ははは、とわざとらしい程の笑いと共に上座についた。

 隊長はそのそばの、隅の席に座ると、そのままテーブルに突っ伏してしまった。何のセットもしなくてもまとまっている(のでフランドに「きーっ」と言われてる)なめらかな髪(シャギー入り)がテーブルの上に力無く広がった。

 すると隣にすとん、と座り直したナヴィが、つんつん、とその頭をつついて問いかける。


「たいちょう、ねむいの~?」


 その声にも反応はなかった。よほど眠いのだろう。


「それでまあ、本当に一体全体、皆さん、何がどうしたんですか? 特にボマー君、キミ、ずいぶん怖い顔になってますよ」


「あんたの隊長ほどじゃないけどよ、これが怖い顔にならずにいられるかって言うんだよ!」


 一体何だ、と僕も身体を乗り出すと、ボマーは両手の拳をぐっと握りしめ、力を込めて言う。


「おやっさんとおかみさんが消えちまったんだっ!」

「ええええええっ!!」


 僕は思わず叫んでいた。

 するとちら、とフランドが非常に嫌そうな目つきで僕を見た。


「何ムラサキ、アンタ、今頃気付いたの?」

「……仕方ないです… ムラサキ君… 今来たばかりだし…」


 ああ、ドクターのフォロー… 彼女の笑みは何よりの薬だ… 僕は思わず舞い上がった。


「だからって、この状況見て、二人が居ないこと気付かないのは、馬鹿って言うのよっ!」

「いや、居ないのは判ってましたが」

「判ってたんなら、どうしてそう今更の様に驚くのよっ」


 そして、一度浮上したはずの僕の心は、再び突き落とされた。

 ふん、とフランドはかぶっていた帽子を目のあたりまで引き下ろすと、天井の方を向いた。


「ははははは、それは悪い冗談ですね」

「冗談じゃないって言うの!」


 恐ろしいことに、そこで数人の声が揃った。

 ちなみにその時、結構な音量が食堂に響いたはずだが、隊長は寝こけたまま、ぴくりとも動かなかった。


「だって、それ以外の何ものでもないでしょう」

「いやそう思って、オレ達も探したんだよ!」


 ボマーは言い返し、僕の方をきっ、と向いた。


「おいムラサキ、お前掃除であちこち言ったんだろ、どっかで二人、見かけたか?」

「い、いえ…」


 僕は首を振りつつ、記憶をひっくり返す。

 うん、何処にも居なかった。廊下、船橋、格納庫の方も一応見たし、プロフェッサーやボマーのよく使っている「工房」付近も音一つしなかったはず。


「あ~ それにねえ」


 フランドは帽子をつん、と人差し指で上げると、面倒くさそうに付け足した。


「プロフェッサーの通信機の反応が、ぜぇんぜん、無いのよ」

「ほぉ? 無いんですか? …故障かなあ…」

「こっちから呼びかけても、ウンともスンとも言わないし」


 彼女は耳の、淡い青のピアスを指して言った。そう、彼女だけでなく、この船内で「戦闘要員」とされている人々は、たいてい何処かに通信機を身につけているということだ。

 プロフェッサーは隊長達の様に直接誰かと交戦する、ということは無いけど、海賊行為(これもこの船のひとに言わせると、何かもう少しニュアンスが違うらしい)をする時にまず突破口を開くので、通信機は必ず持っているはずなのだ。


「あ~…と、言うことは、プロフェッサーは現在、通信圏内に居ない、ということですか?」

「いえ…」


 王子は彼にしては珍しく、険しい表情で首を横に振った。

 淡い金髪にブルーアイズ、ほわんとした、とても柔らかな微笑みを絶やさない彼だけど、今はそれどころではない様子だった。


「そっちはさっき調べました。船外に出た様子は見受けられません。小型船も、スペーススーツもちゃんと確認したら、有りました」


 ふう、とそう言って王子はため息をついた。何か顔色も良く無い様で、僕は少し心配になった。

 しかし船長は、と言えば。


「うーむ、それは困りましたねえ」


 そう言いつつも、表情は相変わらず笑っている。

 さすがにボマーもどん、とテーブルを叩いて叫んだ。


「困りましたねえ、じゃねえよ、船長! これは一大事なんだよ!」


 ぜいぜい、とよほど興奮したのか、ボマーは息を乱していた。そこへ、ドクターが綺麗な透明な声でぽつんと言った。


「二人の身に… 何か… あったのかしら…」


 やはり、と困った、という表情が、クルーのほとんどに走った。そりゃ何とかしなくちゃ、と腰を上げかけた人も居た。

 そして無論、変わらない人も。

 だから。


「ちょっと待って!」


 フランドが不意に右手を挙げた。その目は船長をじっと見据えていた。


「何ですかフラン、ずいぶんと目が怖いですよ」

「まさか… また船長のイタズラってことは、無いでしょうね」


 皆、その時とった姿勢のまま、一斉に船長の方を見た。


「それは心外です」


 するとにっこり笑って、船長は言った。


「ワタシは二人の無事を確認したいと、切実に思ってますよ」


 だけど、その言葉を信じる人が果たしてこのクルーの中に居ただろうか? どうしよう、信じるべきか否か。クルーの中にも戸惑いが走った。

 その間、ずっと隊長は死んだ様に眠っていた。ナヴィも突っつき疲れた様で、隣で椅子に正座して、頬杖をついていた。

 そのナヴィにボマーが問いかけた。


「…よぉ、ナヴィ、…どう思う?」


 どう。この場合の「どう思う」は船長が嘘をついているかいないか、ということだろう。

 ナヴィは――― この船のクルーは、基本的に謎だらけなのだが、この子はその最たるものだ。

 外見はどう見ても子供だ。性別は… 知らない。

 そしてこの子が、この船のナビゲーターなのだ。この子が指示する様に船を動かすと、何か上手く行くらしい。

 たぶん三次元空間把握特性の一種を持ってるんだと思う。でも、元運送会社パイロットから言わせてもらうと、そういう能力はだいたい訓練して身に付くものだ。生まれつき持ってる子なんて、初めて見た。

 まあそれ以外にも、何かと色々、不思議な能力があるような無い様なことを聞いている。だからまあ、ボマーもこの子だったら判るんじゃないか、と思ったんじゃないだろうか。

 ナヴィはくりくりした目をいつも以上に大きくして、じーっと船長を見つめた。数秒間、きーん、と音がしそうな程の緊張と静けさが食堂に広がった。


「せんちょうは、しんぱいしてるよ~」


 その時、ほっとした空気が広がったのは言うまでもない。


「いやあ、誤解も解けたようで何よりです。では皆さん、お二人を改めて捜しに行きましょう」


 よいしょ、と船長は立ち上がり、指示を出し始めた。


「えー~ ワタシとミッシェル君はまずこの階を」


 ちなみにミッシェル君とは、僕がミハイルと呼んでたひとのことだ。このひとは、とにかく色んな呼ばれ方をされている。特に船長からは、マイケル君だのミカエル君だの、毎回変わっている。

 判りました、と一言低い声で言うと、彼はすっと立ち上がった。いつも思うけど、彼の立ち居振る舞いは、素晴らしくすっきりとしている。


「フランドとムラサキ君は下の階を。ボマー君とアリとヘルさんは、最下層とカーゴルームをお願いします」


 はい、とかあいよっ、とか色んな返事が戻った。

 ちなみにヘルさん、というのは隊長の名前だ。

 こう呼んでいいのは船長だけらしく、もし他のひとがそう呼んだら、…駄目だ… 怖くて想像ができない…


「それと、王子は船橋で皆の通信を受けて下さい。ナヴィ?」

「はーい」

「キミとドクターは、状況が判りませんから、念のため王子と船橋に居て下さいね。いいですか?」


 のぞき込む様な格好で、船長はナヴィに向かって言った。


「はーい、わかりましたー。ドクター、行こー」

「そうね…」


 ドクターはふっ、と笑って、元気な子供の後をゆったりと歩いて行った。

 僕も行こうか、と思ったけど、隊長が起きないので、なかなか動くことができなかった。

 しかし怖くて、誰も起こすことができなかったのも事実だった。ボマーもアリもすがる様な目で、ミハイルと行こうとする船長を見つめた。


「仕方ないですね…」


 そう言いながら、船長は隊長の身体を揺さぶって声を掛けた。


「ヘルさん、ヘルさん、起きて下さい」

「あ~?」


 低音が、テーブルに伝わってびりびりと響いた。そうなのだ。不機嫌になればなるほど、この人の声は、外見と全くもってちぐはぐな程に低音になるのだ。

 しかしさすがは船長だ。よいしょ、と身体を起こし、ぽんぽん、と肩まで叩いている。隊長が怒っている様子は無いけど、僕達はもう、顔面蒼白だった。


「何だよ… ドギー… オレは眠いんだ…」

「アナタ聞いてなかったんですよね」

「なぁにを…」

「プロフェッサーとおかみさんが行方不明なんです。捜索に出かけますよ。アナタも行くんです」

「オレもか~?」

「アナタ一応、クルーでしょ」

「クルーである前にオレは隊長だ~」


 それに関しては、船長も何のコメントもしなかった。


「じゃあワタシは行きますから。皆さんの戦果を期待します」


 その言葉を聞いたのか聞かないのか、隊長は気怠そうに顔を上げた。そして猫の様に身体をぐん、と反らせ、両手を高く上げるとふあぁぁぁぁ、と大きくあくびをした。

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