第177話 勧誘(1)


「頼むっ!」


 俺の前でドゲザを繰り広げる男・タケル。

 相方のサブリナは申し訳なさそうな顔で俺にお辞儀をした。


「いや、ってかもっと優秀なやつ勧誘しろって」


「それが……俺嫌われててさ」


 それもそのはず。

 俺はこいつが改心したのも知っているし、ツクヨミの件では正直タケルがいなければうまくいかなかっただろう。

 でも、俺を追放した大バカ者として鑑定士たちの間では有名なままで……。


「まぁ、そりゃしょうがないよな。でも俺……冒険者引退してカード返しちゃってるし。その、レースってのに出場する資格がないんだよ」


「それは、いつものミーナさんパワーでなんとかなるだろ?」


 ミーナは「面白そうね」と乗り気だ。

 それもそのはず。このタケルが出場する「レース」というのは最上級のダンジョンに生成されるレアアイテムを探すことをパーティー同士で競い合うというもの。その競い合わせることに一体何の意味があるのか俺にはわからないが、ギルド恒例の行事で、前回大会は俺たちタケルチームが優勝している。

 ちなみに、その優勝報酬が「温泉魔石」だったりする。当時、他のメンバーは高値で売ってしまったが俺は自分の魔石コレクションに加えたのだ。


「俺とシュー、でエルフのメンバーはどうするんだよ」


「それが問題だよなぁ」


 そう、このレースは【全ての種族をパーティーに入れること】が必須。全てと言ってもギルドに登録がある人間・エルフ・魔族だ。魔族はシューでクリアするとして……エルフは?


「それならいい人材がいるじゃないか」


 この声は……。


「エスターさん」


「あっ、どうもっす」


 タケルの軽い挨拶を無視したエスターは俺に向かっていった。


「記憶は失っている……とはいえエスメラルダの実力は私が保証しよう。戦いの中で彼女が記憶を取り戻すかもしれない。是非、連れていってはくれないか」


 まぁ……S級鑑定士のサブリナ、タケルに俺とシューがいれば一人くらいお荷物がいても大丈夫だろう。


「そろそろ、エスメラルダとナディアが配達に来る頃だ。製麺機が手に入ったんでパスタ料理のランチも始めたんすよ」


「ご苦労だな」


 エスターは鼻で笑ったがこの人はトマトソースのパスタが大好きだ。毎日フィオーネに運ばせているのを俺は知っているぞ。


「パスタかぁ。俺もよくコンビニの食べたなぁ。パスタサラダってのが最高でサァ」


「こんびに? ってのはなんだよ」


「あぁ、何でもない。こっちの話」


 タケルのいた世界の話だろう。でも、パスタを軽くオイルで香りをつけて生野菜と一緒に食べるのはいい案かもしれない。

 今度このバカに異世界のアイデアを出させようか。


「何ニヤニヤしてるにゃ」


 シューが「ぶんっ」と尻尾を振った時だった。


「いやぁぁーー!!」


 ギルドに響いた大きな悲鳴。


「薬師部の方だ!」


 エスターが先頭になって俺たちは悲鳴の元へと向かった。悲鳴の主は息継ぎを挟みながら悲鳴をあげ続けている。


「大変! 大変なのぉ!」


 俺たちに向かって走ってきたのはナディアだった。大きな狼の姿で、尻尾が腹につくくらい巻き込み、怯えているようだった。


「エスメラルダ! もう無理だ! 死んでいる」


 エスターが駆け寄ったのはエスメラルダだった。バスケットに入れたランチボックスは床に落ちてぐじゃぐじゃになっている。

 エスメラルダは死体の横で血まみれになって放心状態だった。蘇生をしようとしたのか……? エスターに支えられてエスメラルダが部屋から出てきたようだ。


「なんて……こと」


 ミーナが絶句した。

 その部屋の主はジェフ。ミーナと婚約をしそうになった、親父の元チームメイトの男性だ。

 

「ナディア……手分けして配達してたの。そしたらお姉ちゃんの悲鳴が聞こえてきたら……お部屋の中のおじちゃん。あんな風に……えぐっ、えぐっ」


 泣き出したナディアをサブリナが撫でた。

 部屋の中をのぞいたタケルが盛大に嘔吐する。


 俺は恐る恐る部屋の中に足を踏み入れた。


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