第123話 デートするの巻!(2)

 俺たちは街……といっても城下町のような場所を歩いている。ワカヒメさんは一応王族だし……きっと俺の見えないところでシノビたちが見張っているんだろうな……。


「そうだ。私のことはワカちゃんとか……ワカとかそんな風に呼んでくださいね。ヒメちゃんと名前が似ているので……」


「じゃあ……ワカさんと呼びます」


 少しよそよそしいからかワカヒメは不満げだ。


「じゃあ、ワカちゃんで」


 にっこり。

 シノビではない彼女はなんとわかりやすいことか。ソラやハク……シノビたちは本当に感情が見えないので困る。

 それに対してヒメやワカちゃんはシノビではないからかとてもわかりやすい。


「ソルトさんもヒメちゃんが好きですか?」


 いや、そんなことはないです。うるさいし、わがままだし。

 まぁでも……ヒメがいなかったら今の俺たちはない。


「まぁ……大事な仲間って感じですね。決して恋愛的な感情は……」


「いいんです」


 ワカちゃんは甘味処の長椅子に座って悲しそうに、でもいつもと同じねと言わんばかりの表情で俺を見ている。


——気まずいな


「この国の人は……アマテラスお姉様やヒメちゃんのように太陽みたいなお方が好きなんです」


「ワカちゃんは誰の血縁なんですか?」


 確か、ヒメはイザナミ様の妹君の娘だったはず。


「私は……誰の血縁でもないんです」


 じゃあ……なんで


「ツクヨミお兄様に殺された私の側近が……この国の大臣だった男の欲望に付き合わされていただけ。だから……ツクヨミお兄様は私を殺さなかったのかもしれません」


 殺さなかったのはイザナミの計らいだったが……。

 でも、血縁じゃない人も王族になりえるのだろうか。


「私の天職はかなで。そして強運。遠縁か隠し子か。人々は私が強運を持つのは大臣が捏造したんではないかなんて言われています」


 強運ってのは極東の王族が持つという特殊な天職だ。

 それはそうと「奏」ってのは……。


「奏?」


「和歌や楽器に力を乗せることができる……といったらわかりますか?」


 ワカちゃんは「ためしに」と言いながら鼻歌を歌った。すると驚く事に俺の魔力がぐんと増し、なんだが力も強くなっているような……?

 この天職はとんでもない力を秘めていると考えられているらしい。実際、もしも冒険者にいれば絶対に最強のパーティーが出来上がるはずだ。


「私の名前は和歌姫と名付けられそして社へと連れていかれました。この奏という天職は千年に一度、極東のどこかで生まれると言われているからです。その後、私が過ごしていた村は……私を差し出すのを渋ったせいで焼き払われました」


 この人はこの国にもっと愛されるべき人だ。

 なのにどうして、こんなにも悲しげで、この街の人たちは腫れ物に触るような目を彼女に向けるんだろう。


「強運かどうかはわかりません。私は大臣によって【反イザナギ陣営】の目玉として過ごす事になったのですから。でも、私は故郷を亡くし、そしてこんな目にあって強運だなんて言えないですね」


 俺は震える彼女の手を握った。

 彼女は涙をこぼし、そして嗚咽していた。

 彼女がどうして俺を呼んだのか。それは……


——自分を知らぬ異国の人ならば偏見なく愛してくれるのではないか


 そんな風に考えたからじゃないか。

 王宮内の反発的な組織に祭り上げられた何も知らない少女は汚名を着せられかけた挙句、彼女を利用した仲間たちは皆死んでいった。帰る場所もなく……

 彼女に残ったものはなにもないのだ。


「どうして……私を……助けたりしたんですか」


 振り絞るような声だった。

 敵しかいなかった王宮の中で唯一彼女に手を差し伸べた異国人である俺を頼るほかない彼女の気持ちに俺は答えることができないのに。

 

「それは……」


「理由なんてない。私が……ツクヨミ兄様たちに洗脳されていたから。そうでしょう」


 俺は小さく頷いた。


「私は……生きていても良いのでしょうか」


 この人は何も悪くない。ただ、生まれただけでずっとずっと誰かに利用され続けていたのだ。そして、その悪人たちは死に……汚名を着せられた彼女だけが生き残った。


「俺は、生きていてほしいです」


「でも、ソルトさんは私のお婿さんにはなってくれないんでしょう」


「あはは……流石に異国人の俺が極東の王族になるわけにはいかないっすよ」


 ワカちゃんは団子をかじって「そうですよね」と言った。

 俺も三色団子を口に放り込む。


「ヒメちゃんとソラちゃんのこと近くで聞いていて思ったんです。ソルトさんなら私を前向きにしてくれるんじゃないかって」


 あの双子のトラブルはとんでもない激重案件だったしな……。


「それに、あなたを想っていることに変わりはありません」


 こういう時、俺はどんな顔をすべきなんだろうか。

 涼しい風が優しく俺たちを撫でた。


「イザナギ様もイザナミ様もワカちゃんが思うほどワカちゃんのことを嫌っていないと思います。俺が呼ばれた時、2人ともあなたを助けくれとそう言っていたんです」


 ワカちゃんの瞳が俺を貫かんばかりに見つめて来るので俺は言葉に詰まる。


「あのふたりは全てをわかった上であなたをまだ社に住まわせている。俺はそんな風に思ってます。ヒメやソラもそうです。俺をここに来させるためにあれこれ言われましたから。それは……あなたのためです」


 ワカちゃんは驚いたような、少し嬉しそうな顔で着物の裾で口元を隠しながら笑った。

 その姿はびっくりするくらい美しくて、もっとこの人の性格が明るかったら……誰よりもこの国の姫様にふさわしい人なんだろうと思った。


「そうだ、せっかくですから私のオススメの出店にいきませんか」


「いいですね、ぜひ」


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