第121話 星の降る(2)
「ぐはっ!」
誰よりも早くゾーイと王女の前に立ちはだかったのは大きな男だった。浅黒い肌、苦悶の表情を浮かべているのはふたりを庇ったせいでまともにナイフが腹に突き刺さっているからだ。
「アロイさん!」
「離してやるもんか……この」
アロイはぐっと男の手首ごと掴んで離さない。その隙にフィオーネとソラが王女を安全な場所へ連れていく。
ゾーイは逃げずにその場に残り、じっとフードの男を睨んでいる。
「そこの鑑定士! さっさと手伝え!」
固まってしまっている俺はハッとしてフードの男を羽交い締めにし、シノビたちと拘束した。
男はものすごい腕力で抵抗をする。
「シュー!」
「にゃにゃっ!」
シューが魔術をかけると男はおとなしくなった。
「ふっ……小娘に負けてられんからな」
アロイはサングリエに治療してもらいながら笑って見せた。険しい顔をしているゾーイが口を開いた。
「ソルト……ツクヨミが誰になっていたかわかったわ」
ゾーイはシンとした俺たちに向かっていった。
「魔物愛護団体の代表クレド」
クレドは王と懇意にしていた。それは、クレド……いやツクヨミが王に成り代わったホシに指示をしていたのだ。
影武者を使って王女を殺そうとした。俺はエスターとゾーイを使って王の正体を暴くつもりがまんまとツクヨミのカウンターを受けてしまったのだ。
「ソルト! 離れるにゃ!」
シューの声に俺は抑えていた男から飛び退いた。ふわり、男の体が浮かんだかと思った瞬間、突如として空中に現れたポートに男もホシの死体も飲み込まれてしまった。
「してやられたな……」
アロイがポートにナイフを投げ込んだ。ぐにゃりと何かに刺さる音がしたが、結果を見ることなくポートは閉じてしまった。
***
瞬く間に今回の事件の話題は国中に広まっていった。アロイの協力もあって国王を殺したのはツクヨミだけではなくうちの国出身の鑑定士と薬師が関わっている可能性が高いことも含め両国の衝突は避けることができた。
新しい王には王女であるラクシャが即位し、ギルド長であるアロイがアドバイザーとして摂政を行うこととなった。
「仕方ないにゃ」
シューの腹に顔を埋めている俺に珍しく彼女は励ましの言葉をかける。
「鑑定士に薬師、それに魔術師が考え抜いた策にソルトひとりで戦うのは本当に難しいことにゃ」
「そうですよ。それに、国王が偽物であったことは暴けましたし……魔物愛護団体も解体し関わっていた上流階級たちも尋問を受けることになっているんですから……すくなからず極東との協力関係を続けていけるだけでもよかったです」
ソラの言う通りだ。
エスターやアロイ以外のけが人はいなかったし、なによりこれ以上ツクヨミに国がめちゃくちゃにされずに済んだわけだ。
「でも……何にも解決しちゃいねぇよ」
「極東との衝突が避けれた以上、アマテラス姉様の捜索はヒミコ様が行うとのこと。今まで通りソルトさんはのんびり暮らす。それでいいじゃないですか」
ソラは本当に優しい子だ。
「そうよ。ワインの新作があるの。今夜はみんなで飲んで朝までゆったりしましょう」
サングリエが俺の肩に手を置いた。
「アロイさんに信じてもらえたんだし……あとはギルドと王権がどうにかすることでしょ? ソルトはただの引退した元鑑定士なんだから」
それも……そうだな。
「責任感があってかっこいいところは認めるけど……そんな顔は見たくないな」
サングリエは俺の頰をつねっていたずらっぽく笑う。
なんだが気を使ったのかソラは席を外した。
「もっと、ゆっくりしよ?」
——にゃおん
シューは暖炉の方へ歩いていく。俺はサングリエに促されるままに体を横にしてサングリエの膝に頭をのせた。
暖炉の前のシューのシルエットがゆらりと揺れ、チリチリと火が鳴る。
シューが香箱座りをすると俺の視界が揺らいだ。
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