第112話 罠師(2)


「確かに、これは罠だな」


 俺とクシナダはセーフティーゾーンの前に張られた罠を解除していた。ちょっと厄介な罠である。

 

「よし、大丈夫ですよ。ソルトさん、一応中を確認してもらえますか?」


 俺は先にセーフティーゾーンへと足を踏み入れようとした。

 俺の鼻をついた香り。


「離れろ!」


 と言ったが遅い。吹っ飛ばされた俺たちは散り散りになる。俺はシューとクシナダと同じ方向へ。

 前方にいたフィオーネとフウタ、そしてサングリエとハクは後方へ。


「クシナダ! 大丈夫か」


「大丈夫……なにが」


「シュー」


 シューがブルブルと体を震わせて毛についたホコリを払った。


「私の魔力に反応した罠だったにゃ」


「でも……はっきりしたぜ」


 俺は軽くホコリを払ってクシナダを立ち上がらせ、そして周りを見渡した。


「これは……冒険者による犯行だ。クシナダ! フィオーネたちを頼む。俺はあっちへ」


 俺はサングリエたちがぶっ飛ばされた方へと急いだ。

 うずくまるハクとモンスターをいなしながらハクを治療するサングリエ。

 モンスターたちの気をひくために俺は大きな音を立てて肉花草で作った干し肉をぶん回した。

 一斉にモンスターたちが俺の方へ注目する。


「サングリエ! クシナダたちの方へむかえ!」


 ハクを抱えて走るサングリエ。

 俺はモンスターたちをある場所へと誘導する。


「よっと」


 俺は不自然に足を上げてジャンプすると干し肉をぶん回すのをやめ全力疾走する。俺の勘が正しければ……


——ドーンッ


「やっぱり」


 張り巡らされた罠。

 この火薬の匂いは忘れないぞ。


「大丈夫ですか!」


 モンスターを倒したフィオーネたちが大きな音を聞きつけて俺の居場所を突き止めたようだった。しばらく走ったから迷うんじゃないかと思ったが怪我の功名だ。


「ハク、怪我は」


 ハクはぐったりした様子でフウタにおぶられていた。


「大丈夫。気を失っているだけよ。鼓膜が心配だからここを出たら医師部へ」


 サングリエも顔中擦り傷だらけだったし、フィオーネに至っては鎧のところどころが焦げていた。

 中級ダンジョンでよかった。


「じゃ、俺とクシナダは罠の残骸を集めてから戻る。フィオーネとフウタはサングリエとハクを連れて先に外へ向かってくれ」


***


「そうですか……では冒険者が罠を?」


「ええ、俺たちが見つけた罠はセーフティーゾーンに仕掛けられていました。冒険者やダンジョンフリーパスを持ってない者が入れないセーフティーゾーンに魔物が罠を仕掛けるとは考え行くいです。無論、シャーリャに調査してもらっています」


 エスターと親父は難しい顔で俺の報告を聞いている。


「いや実はな」


「実はなんですか」


「最近、鑑定士部をやめた鑑定士が何人かいたんだが……そいつらはみんな魔物愛護団体の所属であることがわかったんだ」


 つまり、親父の見立てでは魔物愛護団体による仕業だと思ってるわけだ。

 俺は例の洗脳薬を使った可能性もあると考えているんだがな。


「鑑定士部長の意見に賛成です。調べたところあの罠は鑑定士が作成した可能性が高いです。ダンジョン内に生息する植物を利用して作られたものだと思います。少なからず、魔物の作るものよりは精度が高かったように思います」


 クシナダの意見にエスターが頷いた。

 腐っても鑑定士の意見は聞きたくないのが戦士の性分らしい。少なからず、みんなの前では。


「大変です!」


 シャーリャが扉をあけて飛び込んできた。やはり、親父の言っていた鑑定士たちが俺たちよりも前にダンジョンへ入っていたか。


「これが……ギルドに」


 シャーリャは俺の予想に反してテーブルの上に大きな紙を広げた。どうやら何か……文書のようだ。


——我ら罠師はギルドを退会し

——ギルドおよび戦士部へ宣戦布告する


「罠師……だと」


「メンバーはこちらです」


 シャーリャはもう一枚の紙を置いた。


「やはり……か」


「先ほどお話されていた鑑定士たちですか?」


「あぁ……知らない名前もあるがな」


「これは……医師ですね」


 ネルが真っ青な表情で言った。


「それにうちの術師も何人かいる」


 エスターが小さな体を震わせて言った。


「これは……ギルドに対する謀反です」


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