第72話 鍛治屋(2)


「やめろ! すぐに戦士の寄宿学校のダンジョン研修を中止しろ!」


 俺たちがポートについた頃、すでに寄宿学校の学生たちはダンジョンへと進んでしまっていた。


 そう、あの時シューが見つけたのはあの鍛冶屋の出品リスト。

 そこにあったのは寄宿学校への武器防具の寄付。


「あの武器と防具は例の件の原因だ。すぐに撤退を……」


 俺が受付で怒鳴っている間、一人の魔術師が満身創痍で駆け込んできた。


「寄宿学校のダンジョン研修の……ダンジョンが! 例の突然変異で……被害が!」


——フウタ!


 俺はダンジョンパスをひっつかみ、シューとともにダンジョンポートへと飛び込んだ。


***



 大亀のダンジョン。

 俺たちの予想では冒険者を食わないので突然変異が起きていないはずのダンジョンだったのに……大亀は【飛び棘亀】と変異し生徒たちを襲っていた。


「くそっ! さっさとポートに戻れ!」


 生徒たちは次々にポートへと逃げていくが、運悪く死んだ者も多い。

 そんな生徒の死体ではなく……鎧を飛び棘亀はバリバリと食っていた。


「おい……あの魔物は草食のはずだ」


「感じるにゃ……あれは魔物の本能。おそらく、あの水は時間が立てば立つほど濃い魔力を蓄えていったにゃ。つまり、最近作られた武具ほど魔石の力が濃いにゃ……」


 バリバリッ、バリバリッ


「とぅ! 早くにげやがれっ!」


「フウタ! お前もだ!」


「いいから! 倒れてるやつも連れて……」


 フウタたちの隊が亀の尻尾にふっとばされる。主席の風太は一際頑丈な鎧を身につけていた。魔物たちの狙いはフウタ。

 俺は叫ぶ。


「フウタ! 魔物の狙いは鎧だ! 脱いで遠くへ投げろ!」


 フウタはいるはずもない俺の姿に驚きながらもかぶっていた兜を投げ捨てた。すると亀たちはそちらへと飛びついていった。

 それをみた学生たちは鎧や兜を脱ぎ捨てて俺たちの方へと逃げてきた。


「ニイちゃん!」


「いいから、動けなくなった子と……死んだ子。できるだけ連れて帰るぞ」


 俺たちは飛び棘亀をやり過ごし、なんとかポートへと戻った。


***


 極東風の若い爽やかな男は瞬く間にギルド内で指名手配された。俺とミーナが立てていた「鑑定士と薬師のコンビ」という仮説には当てはまらないが、そもそもその若い男が咬ませ犬だった可能性もある。


「鉄を冷やし固める水を魔石水にするなんて、鑑定士と薬師の考えそうなことです」


 ミーナは大量の仕事を終えた後、仕事終わりの紅茶を飲みながらいった。

 俺たち流通部は、あの後全ての冒険者から武具を集め、そして研究部での検査を行い引っかかったものは没収した。

 それだけでなく国中全ての鍛冶屋や武具屋に検査員を送り魔石を回収した。

 魔石は極東まで及んでおり、ヒメたちに協力をしてもらいダンジョンの突然変異騒動はやっと収束した。


「集まった魔石の数を考えると、うちの国が発端であることは間違いないっすね」


「なら、例の鑑定士と薬師が極東の人間を仲間にいれたのかもしれないわ」


 極東との交流が盛んになって、極東の悪い人間が入ってくることも多くなった。もちろん、取り締まってはいるが利害が合えば例の鑑定士と薬師のコンビに近づく極東人がいてもおかしくはない。


「ドラッグスムージーと今回の騒動は戦士を標的にしたものでした。マリアとアダムの事件は明白な殺意と目的があった。ですから、黒幕は戦士を恨んでいる何者か……」


 俺の仮説が正しければ、戦士を恨む黒幕がドラッグスムージーと今回の騒動を起こした。

 なぜなら、鎧を身につけるのは戦士だけだからだ。

 俺たちが気がつかずに過ごしていれば、より濃い魔力を含んだ魔石水で作った鎧を着た戦士たちは魔物に集中攻撃されることになる。

 そして魔物は戦士を殺し鎧を食いグレードアップする。そしてまた戦士を狙うようになる。


「鑑定士……でしょうね」


 ミーナは悲しそうな顔で俺を見つめた。

 ゴミのように扱われてきた俺たち鑑定士の中には戦士を恨むものは多い。多すぎるのだ。

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