第64話 猫だって温泉が好き!(1)
俺とシューの長年の夢。
それは露天風呂付きの温泉を敷地内に作ることだ。
敷地内って言っても……新しく土地を買った。家の裏側だ。
「こいつが……ついにこいつが役に立つ時がきた!」
キランと俺の手の中で光るのは【温泉魔石】だ。俺の宝物の一つ。こいつは魔力を与えてやると源泉が湧き出すという超便利アイテム。
これを切り出したのはタケルたちと極東系の最上級ダンジョンに行った時だったっけ?
「そうだ、設計図は極東の方に描いてもらいましょ。ハクちゃんも帰省するし、私もゾーイに会いにいくからさ」
リアが浮き足立っている。
それもそのはず、家にあるのは水浴び場のみだ。足を伸ばして浸かることのできる温泉があればもっと疲れも癒えるだろう。
うちの住人は働き者ばかり、少しは休んでほしいものである。
「あったかい……温泉」
誰よりもテンションが上がっているのはウツタだ。雪魔女のくせに冷え性の彼女が温泉に入ったら凍りついたりしないだろうか。
いや、暖炉の火やスープが無事なんだから平気か。
「くろねこ亭の売り上げのおかげで今回はいい大工が雇えそうだし、設計図の方はハクとリア、あとは極東にいるゾーイに任せる」
リアとハクがハイタッチした。
「シューは俺とダンジョンだ。温泉に必要な色々を取りに行こう。
「
そうそうそれそれ。
石鹸石とかいう変な名前の石はこすると石鹸のような泡が出てくる。もちろん自然由来なので水質に問題はない。それで体や髪を洗うことができる。
噴射草というのは背の高い草で足元の水を吸い上げて、花の部分から噴射する。これは体を洗うのにとても便利で下に温泉水を仕込んでやれば暖かいお湯で体を洗うことができる。
循環蓮は自浄作用を持つ植物で、温泉に浮かべれば自動的に湯を綺麗にしてくれる。
もちろん、かけ流しにする予定だけど。
「しかたないにゃ。さっ、さっさと片付けるにゃ」
***
俺はシューと2人。ダンジョンから必要なものを採集してポートに戻った時のことだった。
ギルドが騒がしい。といっても、毒物騒ぎの時のような感じではなく、お祭り騒ぎのような感じだ。
「シャーリャどうかしたのか?」
シャーリャは毒物事件以降かなり昇進した。もともと真面目な子だし仕事もできるが……何より頭がいいのだ。
ダンジョンの構造だけでなく性質や生息モンスターなどなんでも頭に入っている。
「あれ? ソルトさんご存知じゃないんですか?」
はい。ご存知じゃないんです。
「極東から王族の方々がいらしてるとか。なんでもお忍びだそうで、ギルドもてんやわんやです。そうだ、ソルトさんたちが関係あるのでは?」
シャーリャは困ったような笑顔だが、一番困っているのは俺だ。
多分、俺の家にあのお騒がせ双子だろう。
全く……。
「シュー、嫌な予感がするけど戻ろうぜ」
「疲れたにゃぁ」
「俺も」
俺とシューは嫌な予感を抱えながら農場へと戻った。大繁盛のくろねこ亭を横目に急ぐ。
農場には誰もおらず、牧場の方も犬たちが駆け回っていた。
家か……。
「ただい……ま?」
無数のシノビやら侍やらがわらわらと集まっている。
本気で王族が来るとなるとこうなるのが当たり前だよな……。
同時に振り返ったのはヒメとソラだ。お仕置きは終わったらしい。にっこにこであいすくりーむを頬張っていた。
そして2人に挟まれるようにして座っている女性。
俺とシューは目玉が飛び出しそうになった。
「来ちゃった……てへっ」
見慣れた扇で口元を隠した彼女はいたずらに笑った。
「イザナミ……さん?」
膝にはちゃっかりクシナダが乗っかっている。
おいおい、まじかよ。
「温泉を作るときいての。お力になれるかと……」
「いえ……おかえりください」
「そんな殺生な!」
「お前たちもだ。ソラさん、ヒメさん」
「ええっ、もっと甘味を食べるのじゃ! 毒味役も連れて来たのじゃ!」
イザナミは小さくため息をついた。そして一枚の大きな紙を手にする。おそらく設計図だ。
「ソルト殿。これは我が王国専属の建築士に書かせた設計図。温泉といえば極東ですね。我々に敵うものなどいないでしょう。これが欲しくば、私たちをもてなしなさい」
さすがは王妃。
ミーナやネルなんかとは比にならない圧をかけて来やがった。
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