第40話 異世界からきた戦士(2)


「作戦開始……にゃ」


 まるで宮殿のような建物の守りは脆弱だった。ここはリッケルマン家。タケルの居場所であり、ゾーイが匿われてしまった場所でもある。

 シノビたちの調査によってタケルは地下に、ゾーイはマリアの部屋にいることが明らかになっている。


「証人……多すぎませんか」


 俺とミーナだけならまだしもヒメやリアまでついてきている。潜入作戦にしては飛んだ大所帯である。


「つべこべ言わずに行くわよ」


 リアに促されて、俺とシノビは警備員を気絶させその服を着た。まずは地下、タケルである。


「本当に効果があるんですね」


 リアが試すように質問してくる。目覚め岩の上に生えているコケにはかなり強い覚醒作用がある。あのダンジョンは倒し方によってはボスが谷底に落ちてしまう激レア素材のためかすみがちだが、目覚め岩のコケは鑑定士の中でとても評価が高い植物である。

 目覚め岩の表面でしか生息できないため培養ができないし、なにより様々な効果が期待できるのだ。


 問題はあのボス鳥を倒せる冒険者と一緒にダンジョンに潜るのが難しいということだ。


「ええ、元薬師の私が保証します。あのタケル……がどこまで知っているかですね」


 地下室、部屋の中に繋がれていたタケルはうなされるようにして眠っていた。

 彼は実直なバカで女好きだ。

 なのになぜマリアは洗脳する必要があったのか。


「おい、タケル。久しぶりだな」


 タケルはぱちりと目を開ける。

 罵倒か、それとも軽蔑か。


「お前はっ! 俺はお前をずっと探していたんだ!」


 タケルはガシッと俺の両肩を掴んで揺らす。俺はあまりの力強さに変な声を出してしまった。


「俺は……仲間を守れなかった。俺がお前を追放したから……だからお前を探して旅に出ていたんだ。あれっ? ここはどこだ? お前の家か?」


 あぁ……やっぱこいつどうしようもないな。


「あなたは国王専属の戦士になることになって上、ゾーイ嬢との婚約をしているのですよ?」


「へ? 俺は最強の鑑定士を探し出してもう一度ダンジョンに潜るんですよ。ゾーイ? 俺は彼女に顔向けできません。仲間も守れないような男が婚姻なんて」


 ちょ……こいつゾーイのやったことしらねぇの?

 ってか、なんで


「ってか、なんでお前俺を探すのに国を出たんだよ?」


「お前俺にツイホーされただろ? 追放って言ったら国外追放だろ?」


 はい?

 こいつは何を言ってるんだ?


「いや、ずっと郊外にいたよ……」


「そうだったのか! はははっ! また冒険をしよう!」

 

 しねぇよ。バカ。


「お前、ゾーイに騙されたことしらねぇの?」


 呆れる女たちを前に俺とリアは淡々とゾーイがしでかしたことについて説明をした。タケルはよくわかっているかいないのか複雑な様子だった。


「じゃあ、なんで俺とゾーイは婚約することになってるんだ? 流石に心優しい俺でも許せんぞ。 マリカやアイラを失い……それにリアまで」


「私は生きてるわよっ!」


 リアに後頭部をぶっ叩かれたタケルは「すまんすまん」と謝った。


「タケルさん、あなたは旅に出る理由を国王に話しましたか」


 タケルは少し考えてから


「仲間を守れなかった罪を償い、自ら追い出した仲間を取り戻すために旅に出ますって言いました」


「そうですか」


「ミーナさん?」


 最強に嫌な予感。俺とリアは顔を見合わせた。


「あるあるじゃ。このような立派な宮殿に住まう御仁。そのお嬢様となればのは当然のこと」


 ヒメは名探偵も顔負けの表情で言い放った。


「話を聞くに……どこかがこの話をタケル殿が負け、勝手に出て行ったことにしておるようじゃの」


「ヒメ様も我が国のその筋にはよ〜くお世話になっていますからね」


 使者の一言でヒメはぐっと押し黙った。泣きべそでぐすんと鼻をすすった。


「医師部……でしょうね」


 ミーナが唇を噛んだ。医師部といえばギルドの中でもかなりの権力を持つ組織だったはずだ。

 あの時だ。

 俺が初めてマリアと会ったのはギルドの受付でゾーイを引き取った時。

 よくよく考えてみればマリアはわざわざギルドへ足を運んだ。

 それは、医師部へ献金かなにかをして妹の不始末を握りつぶすためだったか。


「そうか、ゾーイの悪行についてはギルド外部には出ていなかったとすれば」


 その仮説が成り立つのであれば、タケルを洗脳し俺たちの農場を襲わせることでゾーイを間接的に脅せば……


「リッケルマンだけが得をする図式になるわけだ」


 ぽかんとしているのはタケルだけだった。


「いいか、お前はこの屋敷に住む女狐に洗脳されて、もう冒険にいけないところだったんだぞ! それに、ゾーイが無理やり捕まって上で泣いてる。お前の出番じゃないのか」


 タケルがぐっと拳に力を入れた。

 この男はバカだしスケコマシだ。けれど強さはおそらく最強。洗脳されやすそうだし、そもそも洗脳薬なんか使わなくても騙されるバカだ。

 だから俺が操ってやれば……一緒に冒険していた時のように。


「ゾーイは悪いことをした。でも反省して真面目にやってた。それなのに政治のコマにされるんだ。いいのか、一度愛した女だろ」


「俺は……国王の専属なんかになりたくない。もっと冒険がしたい! 冒険して強くなってみとめられて、はあれむを作るんだ!」


 だからその「はあれむ」ってなんだよ。異世界語か?

 それに国王に対する発言は不敬罪そのものだぞ……まったく。


「じゃあ、諸悪の根源をやっつけにいくだろ?」


「おう! 戦いは俺に任せろ」


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