第15話 レッツ栽培(1)
「安いよ安いよ〜! そこのマダム! いかがですか〜」
威勢のいい声と可愛い容姿、元気な少年は露店の呼び込みをやっている。
「あら、元気ねぇ。おばちゃんに一つちょうだいな」
フウタは「まいど〜」と気立てよくお礼を言って、イモイモ焼きを一つと店主に伝えた。店主のおっさんは「あいよ」と返事をする。
***
「うまいこと厄介払いしたにゃ」
焼き魚を咥えたシューがもぐもぐと口を動かした。
そう、俺はあのおっさんの商売権を守りながらフウタたち兄妹を働かせること、俺が育てた野菜や作物を優先的に売ることを条件とした。
おっさんとしては商売権を取られるより幾分かましだったようですぐに条件を飲んだ。
それどころか【S級鑑定士公認】なんて看板をつけたもんだから、あの毒イモ事件のこともあっておっさんの店の品物は飛ぶように売れている。
ほんと、商売人は卑しいったらありゃしないぜ。
「ソルトさん! 市場で手に入れたタネは言われた通り植え終わりました!」
泥だらけのフィオーネは鎧ではなく作業着のまま玄関に突っ立っている。
一般的に流通している小麦や根菜類などダンジョンに行かずとも手に入るタネを根こそぎ集めて畑を区分けし、タネ植えをさせたのだ。
俺の宝物の一つである【育成魔法石】を通した水を与えているので通常の5倍ほどの速度で育つはずだ。
拳ほどの大きさで水色にキラキラ光るこの【育成魔法石】はバケツ1杯の水に30分つけると、その水を【育成水】に変化させる。
育成水があれば大概のものは成長を早め、コボルトなどの低級魔物であれば3日と立たずに大人になってしまう。
「ご苦労! 次は土モグラたちに餌をやってくれ。狭い巣箱の中で窮屈だろうが野菜の根が張るまでは仕方ないからな」
残飯ですね! と嬉しそうにフィオーネは飛び出して行った。
「あんにゃにやる気があるのはすごいことにゃ」
ソファーに転がっているシューは足をぐっと伸ばしバタバタと上下に動かす。フィオーネはゴロゴロしたくないのかにゃ? と言ってから猫の姿になって日向ぼっこに行ってしまった。
「牧場……かぁ」
俺は隣接した沼地や荒野を見ながら呟いた。
何を作るにも
牧草の繁殖だけじゃなくて牛舎を建てなきゃいけないし、専用の道具だって買わなきゃいけない。そもそも、
「金、金、金」
残金は少ないわけじゃないが、土地を買うほどじゃない。
となればやっぱり……
「シュー、ダンジョンに行こう」
***
乳牛の肉に近い果実を実らせる
「
七種類のベリーを実らせる木で栽培は大変だが一本あればかなりの金銭を生み出してくれるだろう。
俺は比較的細い苗木を探して優しく引きつくと、根が傷つかないように保護してから荷車に乗せた。
「おお! みろ、こりゃご馳走だ」
採集に向いているこのダンジョンは階層によって環境が大きく異なる。俺たちがいるこの階層は草原で小川が流れるとても心地よい場所だ。
太陽光のような光が上層から差し込んでいてなんとも不可思議であるが、ダンジョンってのはそんなもんだ。
俺たちの横で小川に泳ぐ魚を手づかみしているパーティーはやっぱり鑑定士がいない。
「ソレ、食うんすか?」
3人パーティー。小ぶりのサーモンを捕まえてはしゃいでいた。俺に声をかけられてピタッと動きを止める。
リーダーであろう戦士の男は怪訝そうに俺に返事をした。
「そうだけど? わけてやんねぇぞ」
「いや、わけてくれなくていいんだけどさ」
変なの! きもーい。と取り巻きの女魔術師たちがヒソヒソする。確かに、ピアスはしてるし目つきも悪いから「優しい鑑定士風」ではないけどさ……。
「なんだよ! 俺たちのパーティーは魔術師足りてるからさ」
あ、魔術師に見えたのか。
いや……魔術師がこんな荷車引いてるかよ? ほんと戦士ってのは脳筋バカばっかりだぜ。
「俺は魔術師じゃない、鑑定士だ」
また女たちが笑う。
「なんだ、どっかで雇われた鑑定士が惨めに木の実拾いしてんのか。いいよ、一匹やるよ。おかわいそうに」
皮肉たっぷりのつもりで戦士が言った。女たちも「ひど〜い」と笑っている。
教えてやるべきか? それとも……
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