第13話 毒イモ(1)
「その冒険者は1ケースもこれを?」
イモイモ焼き店主はコクコクと頷いた。彼が話しているのはギルドの幹部で流通を担当しているミーナ・シュバインさんである。
あの後、俺はギルドに駆け込んで新しいエルフで可愛い担当受付嬢に事態を報告した。すると前とは違ってすぐに上に話が通り、今はギルド内の会議室の中で聞き取り調査を受けている。
持つべきものはデキる受付嬢。俺も恵まれて入ればまだ冒険者ができていたかもしれない。
「はい、そこの元鑑定士さんが気がついてくれなければ……」
「お待たせいたしましたー!」
いやいや、そういうテンションじゃないから!
フィオーネが大声で会議室に乗り込んできた。木箱いっぱいのクモイモを持って。
「ありがとう、えーっと」
「フィオーネ・クランベルトと申します」
「フィオーネさん」
ミーナはにっこりと微笑んで、木箱を机の上に置くように指示した。落ち着いているがかなり怒っているらしい。部屋の中の空気がピリリと緊張する。
「で、ソルトさんがこれがクモイモであることに気がついたと?」
「ええ、知り合いの子供がイモイモ焼きを食べて倒れまして、少し気がかりだったので街のイモイモ焼き露店を当たってみたら」
ミーナは赤い瞳を俺に向けた。少し年増ではあるが、丸いレンズの奥の瞳はとても綺麗だ。いかにもって感じの赤毛はくるくると好き勝手に跳ね、幼さも残っていた。
「クモイモは上級ダンジョンでも限られたダンジョンにしか生息しないはず、シャーリャ。調べて頂戴」
ミーナの指示に返事をしたシャーリャは俺の新しい受付嬢だ。どうやらエルフの集落からやってきた新人らしく生真面目なのが取り柄だそうだ。
シャーリャは緑色の髪をふわりと揺らしながら会議室を出て行った。エルフってのは本当に可愛い。
「その女の子は?」
ミーナが心配そうに言った。
大丈夫、クモイモが原因であれば医者は対処法を知っている。原因がわからないことが問題なのだ。
「ええ、クモイモの毒を解毒して容態は落ち着いていました。今日中には退院できると……」
ミーナは「そう、よかった」と短く言ってからため息をついた。ミーナの耳にぶら下がっているイヤリングがとても安い宝石で作られているところを見ると、幹部といえども流通担当はお給料が悪いのかもしれない。
「すまん……どれも似たり寄ったりで思い出せねぇ」
店主は頭を抱えた。
そりゃそうだ。安さに飛びついたせいで女の子が死にかけ、ギルドはてんてこ舞いなのだから。
まぁ、クモイモは薬草で正しい治療をすればすぐによくなるし、この店主が広げた分はそこまでの量じゃない。
問題は……
「あいつ、1ケースしか売ってくれなかったんだ」
***
「ミーナ様。クモイモが生息するダンジョンに派遣されたパーティーは3つ。そのうち、1つは壊滅。もう1つは討伐クエストだったので採集はしておらず」
シャーリャは息を切らして派遣表を見ながら言った。
「最後の1パーティーは?」
「採集目的でダンジョンへ潜り、昨晩生還。担当はゾーイです」
あぁ!!!!
俺とシューは顔を見合わせた。その名前には聞き覚えがあるし、嫌な思い出しかない。
容姿端麗、大人気受付嬢……そして無能。
「元、俺たちの担当だ」
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