第8話 沼の花(1)
「おぉ! ガキども! 1日300ペクス。そんで〜沼の魚は持って帰り放題!準備はいいか〜!」
おぉ〜!
と元気な子供達の声が俺の農地に響いた。貧民街のガキどもにとって300ペクスといえばかなりの報酬。しかも、魚は食い放題とくれば何百という人数が集まる。
「バケツで水を掬って水路に流す! 作業はたったこれだけだ! 頑張ったやつには兄ちゃんがいいもんやる!」
うわぁぁ! と歓声をあげながら沼に突っ込んでいく子供たち。農地の近くの水路がまだ生きていて本当によかった。
「で、俺らはどうすっぺよ」
設計図をわたして、それから仮池の作成も請け負ってもらうことにした。
「にーちゃーん! これ泳いでたら見つけた!」
ネズミほどの大きさの黒い塊はぷくぷくと水泡を吐きながら小さく揺れている。これこそ諸悪の根源。沼花のタネだ。
「少年、よくやった。 これはあっちのでかいバケツに入れて集めてくれ。見つけた数だけコインを増やしてやる!」
「おい、あんちゃん。足りない材料はどうするよ」
大工が設計図を眺めながら言った。
「悪いが買ってきてくれ、代金はこれだけあれば足りるだろ。差し引きはお前らの報酬の足しにしてくれ。その代わりできるだけ豪華にな」
かなりの大金に大工たちはニヤつきながらも「あいよ、任せときな」とウインクした。
さて、ここの作業はこいつらに任せて俺とシューは土集めへと向かう。
土集めといっても、農業商店を回って馬車に土を積み込むのはやめた。俺は鑑定士。もっといい方法があるではないか。
***
「では、こちらの魔法陣へどうぞ」
冒険者を引退してから俺の担当受付嬢が変わった。名前は知らないがエルフの子でとても気立てがいい。
そんなことを考えながら受付嬢に笑顔を向けていると俺の体は魔法陣に吸い込まれる。
次に意識が戻った時には見事、ぱっくりと口を開けたダンジョンの入り口にたどり着いているのだ。
「超初級のダンジョンね。お目当てはモンスターの土もぐら」
シューが大きなケージを組み立てながら軽快に言った。
そう、土モグラという可愛いモンスターは農業には欠かせない益獣モンスターだ。汚れた土を浄化するだけでなくその糞は植物のよく育つ腐葉土となる。餌は残飯でいいので食費もかからないし、完全なる人畜無害。
ただ捕獲が難しいのでなかなか手に入らず高値で取引されているのだ。
「さて、やりますか」
シューはダンジョンの中に入ると地面に手をつき、呪文を唱え始める。幻影魔法で土モグラたちを惑わせて捕まえる作戦だ。
「ソルト!」
「あいよっ」
地面がぽっこりと盛り上がるのが合図だ。猫ほどの大きさのモグラが顔を出す。その瞬間にひっつかんでケージに放り込むのだ。捕まった土モグラはキューキューと鳴いて大人しくなる。
「そっち」
「あいよ!」
「あっちも」
「あいよっ!」
何匹か捕まえてそろそろ帰ろうとしていた時のことだった。ケージの中の土モグラたちが「ピギャーピギャー」と警戒するような声を出し始めたのだ。
「あら、何かおかしいにゃ」
「これは警戒している鳴き声だ。奥で新人冒険者がこいつらの天敵に食われたとか?」
土モグラの天敵といえばこのダンジョンに生息する
とはいえ初心者でも余裕で攻略できるくらいの強さではある。
「ま、助ける義理もないし帰るか」
騒ぐ土モグラたちのケージを持ち上げる「お前らよろしくなぁ〜、名前つけてやるからなぁ」なんて言いながら俺は出口へと向かう。
「シュー?」
シューは一歩も動かず尻尾をブンブンと降った。イライラしている合図だ。俺は黙って彼女返事を待つ。
「ねぇ、ほんとにいいのかにゃ」
シューは振り返らずに言った。なんで怒ってるんだ?
「関係ないだろ。ダンジョンでは毎日人が死ぬ。それは仕方ないことだ。俺たちもモンスターを殺す。だから殺されることもある」
——あの子のこと、心配しているんでしょ。
「シュー?」
俺の脳裏に1人の女が思い浮かんだ。恵まれた金色の髪をした美人で豊満で、それでいて馬鹿正直なクソ弱女戦士……フィオーネ・クランベルト。
「あー! もう!」
俺はケージをシューに押し付けて、近くにあったコボルトのションベンまみれのキノコをひっつかむとダンジョンの奥へと走った。
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