第45話 ろんさむさばいぶ

 静寂。

 無となった里。

 全ての始まりはここだった。

 会社をクビになって、電車に乗って帰ってきて、無になった里、消えて行った住民たちの記憶を前にして。

 そしてきつねと出会った。

 霧が立ち込めている。

 あの時の俺の心にもまた、迷いという名の霧が立ち込めていたのだ。とかいうとかっこつけすぎてるか。でも、

 生きるか、死ぬか。

 信じるか、信じないか。

『っていうか僕たちももう旅の仲間でしょ』

『僕は君を嫌いになったりしない』

 そんなことを言われたのは初めてだった。

 そうして俺は、「生きる」の方にシフトして、

『世界じゃなくて僕を信じてください』

『嫌ってくれと言われても嫌ってあげませんよ。きつねは不親切』

『僕は君に興味がある。君のことが気になってるんですよ、知りたいんですよ』

 きつね。

 それはもう俺の中で、無視できぬほど大きな存在になっている。

 それはもう俺の世界で、無視できぬほど多くの位置を占めている。

 きつね。

 そうか、俺は、きつねを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る