第26話 はいずるように
樹海の中の、白い遺跡。
正面に、入り口らしきものがある。円形のアーチで囲まれたそれをくぐり、俺は遺跡の内部に入った。
一本道の長い通路を抜け、開けたところに出ると、既視感。
「これ……」
元・たぬきの里にあったあの謎のオブジェがここにもある。
「無と何か関係してるのか……?」
疑問を口に出そうにも、きつねは寝ていて答えない。
このオブジェが元・里のときと同じくポータルなら、これに触ればどこかに転移できるはずだ。
きつねを背負ったまま、俺はオブジェに手を触れた。
ぱ。
周囲の景色が切り替わる。いや、俺が転移したんだ。
背中を確認するときつねもちゃんと一緒に連れてこられていて、俺はほっと息を吐いた。
「んん……」
もぞり、と背中で身じろぎする気配。
「転移したんですか?」
「そうだ。起きたかきつね」
「ご覧の通り。で、これはどういう状況です?」
「いや、見ての通りだが……ってすまん、背負われたままじゃ困るよな。今下ろす。立てるか?」
「え? ああ、はい」
きつねをそっと地面に下ろす。
問題なく立ててるな。うむ。
「たぬきくんは……ひょっとしてひょっとしなくても、ご親切にも僕を背負って樹海を進んだんですか?」
「そうだが」
「えっ本当に」
きつねの目が一瞬大きくなり、そして、眉が寄せられる。
「それはその……なんというか」
すみません、ときつね。
「なんだ、謝るなんてお前らしくないな。旅の仲間なんだから、困ったときは助け合いだろ」
「いや、そういうことではなく……いや、うーん、親切ですね? たぬきくんは」
「誰にでも親切なわけじゃないぞ」
「子供には親切にしたくせに」
「うっ」
「お人好しぃ」
「お前……二度と助けてやらないぞ」
「うーん……でも君が僕に世話焼いてくれたのは事実ですし、いやその……今回は、ありがとうございます」
「また、歯切れが悪いな」
「うーん。君、そんな風に出会った存在を片っ端から助けてたら、いつか救えない対象が出てきたときに絶望しますよ?」
「今回は救えたんだからいいだろ」
「うー……ん……」
きつねはまだ眉根を寄せている。何がそんなに気に入らないんだ、こいつは。
でもこいつが気まぐれなのは今に限ったことじゃないし、別にいいか。
「ほら、助けてやったのが気に入らないんなら謝るし、でもこれは俺のエゴだからな。迷惑ってんなら別にそれでいい、それで嫌われるんなら、」
嫌われるんなら?
「嫌いませんよ……言ったでしょ」
「……そうだったな」
なぜか今回は、嫌われないだろうという確信があった。
信じてしまっている。
よくない。
誰かを信じると、裏切られたときに後悔する。
俺はこいつに裏切られると思っているのか? 万が一にも?
「ちょっとぉ、また何か余計なこと考えてるでしょ。僕は君を絶対嫌いませんよ。嫌ってくれと言われても嫌ってあげませんよ。きつねは不親切。わかったらほらほら、行くんでしょ、行きましょう」
「あ、ああ……」
腕を引かれ、俺は歩き出した。
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