第17話 ちりにむかって
子供は俺より走るのが速く、ついていくのに苦労した。
相変わらず走っても疲れなどは感じないが、身体の出力が一定まで来るとそれ以上出なくなる。体力がついたのに加えて身体能力まで上がってないかと期待したのにがっかりだ。まあ、この短時間の旅でそんな飛躍的に能力が向上するなんてことはないか。残念。
「あれだよ、お兄ちゃん」
「おう、どれだ?」
「あそこ」
そびえる教会、子供が指差す先に目をこらすと、数ミリほどの花が届くか届かないかのところに咲いているのが見えた。
小さいな。取るときに潰してしまわないか心配だ。というか、届くのか、あれ?
「取ってみるからちょっと待ってろ」
俺は壁に近付き、とりあえず背伸びしてみた。
指先が花に触れる。
途端、ふらりと視界がぶれた。立ちくらみだな。やっぱり運動不足だ。
俺は一旦背伸びを解除し、下を向く。
「お兄ちゃん、がんばれー」
「おう頑張る。ちょっと待ってくれな」
眩暈が収まるのを待って、俺は再び背伸びをする。
「お?」
意外とすんなり、花は取れた。
「ありがとうお兄ちゃん!」
「ほらよ」
子供は花を受け取り、笑顔になる。
「お母さん、喜んでくれると思う?」
「……ああ」
死んでいるのに喜ぶも何もないよなと思うが、子供のそういった思いを壊すのは本意でない。嘘も方便というのはあまり好きな言葉ではなかったが、今回は己を曲げることにする。
「きっと喜んでくれるよ」
「うん!」
子供が歩き出す。
「こんなところにいたんですか、たぬきくん」
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