泥だらけのSOS

知谷

序章

 僕は、今日も一人で、深く沈んだ細い道から、空を眺める。

 キラキラと、光を通した蜂蜜のように、眩く輝く明るい空は、冷たい暗闇の中に佇む僕を、いつも照らしてくれていた。


 人は、存在した以上、周りに何かを、発信している。

 影響を、与えざるを得ないのだ。

 影響を発し、周りから影響を受け、人は成長していく。「私は、人に与えられるような影響力なんて、持っていない」と、思う人も居るだろう。しかし、それならば、あなたは、誰の影響も受けずに、今の自分になったのだろうか。

 僕が、周りから、大きく影響を受けてきたのと同じで、皆、影響を多かれ少なかれ、与え、受けている。

 影響。

 誰かが、言っていた。『影響を与える事に、生きる意味がある』と。

 つまり、人に与える、自分の影響を恐れ、閉じこもってしまった僕には、生きている意味など、ないのだろうか。

 影響は、良いものばかりではない。怖い影響、というものも存在する。

 自分の言動一つで、誰かに、傷をつけることも、それだけでなく、誰かを、この世から消すことも、容易なのだ。その現実を、周りからの影響を受け、傷つき、身を以て知った時、僕は自分が——自分の周りに与える影響、というものが、とてつもなく恐ろしくなった。

 自分の影響、というものを自覚せずに、誰かを、傷つけることは、愚かだ。

 しかし、自分の影響、を自覚し、それを恐れ、閉じこもり、発信を辞めることは、更に愚かだった。

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