強くはなれない。でも諦めたくない。

「不要不急」。今まで生きてきた中で一度も使ったことがなかった言葉が当たり前に飛び交う生活が続いた。外に出て誰かに会うことが制限された生活。会わなくてもいいけど会う機会があった人とは本当に会わなくなったし、あまり会っていなかったけど会いたいと思っていた人とは会える時にちゃんと会おうと強く思うようになった。仕事や自分の生活、一人で楽しめることで満たされてしまったことで、誰かに会う余白が少なくなってしまったように個人的には感じていた。
でも、ちょうどこの小説を読み始めた時期に素敵な人や自分と波長があう人と知り合って仲良くなる機会が増えて、「やっぱり人に会うのはいいな」と思うようになった。思い通りにいかないこと、自分と相手の気持ちがすれ違うこと、深く知れば知るほど心が離れていくこと、人と会うことや知り合うことが減った分、人と分かり合えないダメージは大きい。それでも、誰かに期待したり、誰かと通じ合いたいと思わずにはいられない。強くはなれない。だけど諦めたくない。自分が自分らしくいるために、誰かと関わり合っていたい。里瀬のそんな姿に自分を重ね合わせた。
甘すぎず、時に少し後に引くくらいに苦い。上手くいかないことのほうが小説の中でもきっと多い。でも上手くいかないことのすべてが、自分の弱さやふがいなさを肯定してくれているような気持ちになる小説。

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不要不急の恋人

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