第36話 これが、閣下の望んだ結末……ですよね?

「嗚呼、実につまらんな」


 心からの笑顔を浮かべながら、どこまでも冷たい声でリベル様はそう言った。


 ……おかしい。喋り方はいつものリベル様なのに、表情はもう一人のリベル様が浮かべるものに見える。


 どちらもリベル様だけど、心と身体が乖離しているようなその様はなんとも不気味で、私の喉はヒュッて音を鳴らした。


「流石は今まで俺様の目を逃れていた反逆者どもだ。この地に来るまで大方の準備は済ませていたのだろう。騎士達が摘発に向かってすぐ、全面戦闘が行われた」


 つと視線を炎に向け、リベル様が事の経緯を語り出す。

 私が告発した後、しっかり準備はしていたみたい。


「だが、こちらの動きに気づくのが些か早かったな。城内に内通者がいたのだろう」

「……あっ」


 ドキッと心臓が跳ねる。


「心当たりがあるようだな?」

「その……」

「別に構わん。結果として騎士たちは返り討ちに遭い、反逆者どもは城に攻め入った訳だ」


 言い訳しようと開いた口は、リベル様の言葉に遮られた。


「こうなる事もある程度は読めていた。唯一計算違いがあるとしたら、それはあのフェーン・ガーネットを打ち破るほどの強者がいた事か」

「閣下……」


 城は燃えて、革命軍の手はすぐそこまできている。

 それは私たちの完全敗北を意味していた。

 それなのにリベル様は今、どこか満足気に見える。


「これが、閣下の望んだ結末……ですよね?」

「そうだ」


 ゲームで何度も見た結末。そして、私がこの世界に来てからも四回目になる革命の日。

 どう足掻いてもこの時を迎えるのは、革命軍の努力もあるけれど、何よりリベル様がそう望んでいるからだ。

 でも、


「何故、こんな事を……」


 リベル様は長年一人でこの国を支え続けた。

 反乱の兆しにも敏感で、過剰なほど厳しく罰してもいた。

 だからこそ分からない。

 この国を潰したいのなら、もっと簡単に出来たはずなのに。


「……復讐のためですか?」

「それは貴様の知るリベル・ディクターが言ったのか?」

「……いえ、違います」


 私はゲームでリベル様ルートをクリアした。だけどリベル様の動機はふんわりとしか描写されず、結局何がしたかったのか分からず終いだった。

 全てのルートをクリアした先に見れるトゥルーエンドで語られたらしいけど、そこまで辿り着く前に私はここにいる。


「だろうな」


 リベル様は、私の質問には否定も肯定も返さない。ただ暫く国が壊れていく様をジッと眺めていた。


「良いか、偽物」


 どれくらい経ったのだろうか?

 数秒だった気もするし、数分だった気もする。

 ようやく炎から私へと向けられたその視線は、酷く凪いでいて、そして冷酷な声で私に告げる。


「この行いに意味はない。

 私の思想に正義はない。

 貴様の好意に価値はない。

 貴女の言葉は響かない。


 何度も言ったはずだ、偽物」


 『偽物』。いつも聞いてるはずなのに、この時だけはひどく心に刺さった。


「言葉ではなく行動で示せ。途中経過などどうでも良い。結果だけが全てだ」

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