第34話 あのサーカスは『黒』です
コンコン。
「閣下、レヴィでございます」
「入れ」
静かに扉を開き、執務室の中へと入っていく。
昨夜言われた通り、出直した私を迎えたのは右目を前髪で隠したリベル様。モノクルの奥にある鋭いオレンジの瞳は、相変わらず書類に向けられていた。
「クローバーサーカスへの視察結果を報告いたします」
「聞こう」
「はい。あのサーカスは『黒』です」
そう断言した私に、リベル様の手が止まる。
「明らかに反逆を煽るショーの内容でございました。直ちに取り締まる必要があるかと」
「それが貴様の答えか」
「……はい」
私はリベル様に嘘をつかない。
だから事実を伝えるんだと、帰りの馬車で決意をしたけど、結局正史に逆らうのが怖くてうだうだしてたら深夜になっちゃっていた。
【
欠片も許される余地がない懺悔を心の中で繰り返す。
これで未来は変わるのかな?
黙ってリベル様の行動を見守る。
リベル様は手の中にあった書類や羽ペンを全て置いた後、どこか遠くを見つめるような動きをした。
きっと魔法でサーカスの様子を見ているのだろう。
「……ほう」
数分後、眉間を揉みながらリベル様が嘆息をこぼした。
「何か見えましたか!?」
「いや。至って普通の練習風景だ」
「そんな……! わ、私嘘なんてついてませんよ! たまたまそういう時間帯だったんですきっと本当に——」
「分かっている。よく見なければ気づかなかった。一見すれば普通の光景だが、奴らの動きは一定時間毎に一挙手一投足変わらず繰り返される……まるで人間の動きではないな」
「それって!」
私がクリアしたルートでは語られなかったけど、そんな監視カメラの細工みたいな方法で、【Glacia】は革命まで存在を気づかれなかったんだ!?
「確か魔法師がいたな?」
「はい。団長が水魔法を使ったイリュージョンショーを」
「水……?」
リベル様の声はどこか腑に落ちない様子ながらも、近くに控えていた衛兵に命令する。
「フェーン・ガーネットを呼べ。
「はっ!」
これでいよいよ事態は動き出した。
今呼ばれたフェーン・ガーネットは、この国の騎士団長でリズきゅんの義兄、侍女長マリアさんの一人息子。そして、この国の公式剣術大会で優勝した使い手。
そんな人が呼ばれるんだ、これはもう全面戦争が始まってもおかしくない。
「閣下」
じんわりと漂うシリアスの空気。
この先どうなってしまうのか、不安しかない。ないけれど!
「役に立てた褒美として、私に茶を淹れさせてください!」
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