第23話 貴様は明日から来なくて良い
「背筋を伸ばせ。重心を踵に乗せろ」
ところ変わってリベル様の執務室。
私は今、外に出しても恥ずかしくないようにとリベル様直々に立ち姿から叩き込まれている。
私が咄嗟に捻り出した侍女になってリズきゅんの素性を探るという提案は、意外にもあっさり受け入れられた。
ゲーム知識からリズきゅんにはとんでもない秘密がある事を私は知っていたわけだけど、さすがのリベル様でもまだその秘密を知る事は出来ていないみたい。
「もっと腹に力を込めろ」
「はいっ!」
「威勢が良いのは返事だけか? だらしのない顔をするな」
「うっ、はい!」
善処シマス……
地下牢から解放されて約二時間経つわけだけど、移動とメイド服に着替えた時間を除けば私はずっとリベル様の側に立たされている。
何かの罰ゲーム? いいえ、ご褒美です!!
だって、だって! 生きて元気に働いているリベル様をこんな間近で長時間眺めても許されるなんて!! しかも、ありがたい罵倒つき!
はぁはぁ……脳みそ沸いちゃいそぉ……
「偽物。やる気がないなら地下牢へ送り返してやるが?」
「あります! ありますからぁ!!」
地下牢だけはやめてぇぇ。
リベル様に見捨てられないよう、なるべく表情を引き締める。
姿勢良く立つなんて基本的な事のようで、今までちゃんと意識したことなかった。けど、元のレヴィーアはできていたせいか、正しい力の込め方さえ分かれば意外と維持するのは苦にならない。
このまま顔はクールに頭はホットに。両目はリベル様を穴が開きそうなほどジッと見つめて……
コンコンっ
と、私が何かを掴みかけた時、執務室のドアを叩く音が響いた。
「閣下。お茶を持って参りました」
「入れ」
ティーセットを乗せたカートを押しながら、侍女さんが一人部屋に入ってくる。
リベル様にお茶を淹れられるなんて羨ましいなーって見ていたら、彼女は魔法の器具みたいなもので
……あ、そこから?
ティーポットとカップを温め、茶葉を計り、湯を注ぐ。フタをして、砂時計をひっくり返して、蒸らす。
慣れた手つきで準備していく手際があまりにも鮮やかで、私の視線はいつの間にか侍女さんに釘付けになっていた。
程なくして、
「お待たせ致しました」
ポットの中を、スプーンで軽く一混ぜ。
最後の一滴まで回し注がれた紅茶が、リベル様の元に届けられた。
良いなぁ良いなぁ、羨まけしからん!
いつか浮かれたループの時、淹れたお茶を無視された思い出が蘇る。
今の手順覚えたから! 次こそは私が淹れたお茶を飲んでもらうんだから!!
血涙を呑む思いで、リベル様がカップに手を伸ばすところを見つめていたら……
「ミネット・アレンシアと言ったか?」
「はいっ」
「貴様は明日から来なくて良い。出て行きたまえ」
「は……えっ」
言い終わるや否や、リベル様はカップをひっくり返し、中身を床 (絨毯)にぶちまけた。
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