第7話 見よ!悪夢の終わる瞬間を!!

 ——おお、レヴィーアよ。死んでしまうとは情けない。


 気がついたら真っ暗な空間にいた。


 ……気がついたら真っ暗な空間にいた?


 なんで? えっと、確か私は部屋でゴロゴロしてて、そしたらノックが聞こえたから確認しに行って、それでそれで……


 思い出したのはドスっと胸を貫いた痛み。

 

「ぎぃぃやぁああぁあああ!! 死んだあぁああぁあああ!?!?」


 慌てて胸の辺りを探っても傷や痛みがある様子はなく、当然ナイフだって刺さっていない。というかそもそも今動けてるし、でも死んでしまうとは情けないって今誰かに言われて……


 ——おお、レヴィーアよ。取り乱すとははしたない。


「いや、取り乱すでしょ!!」


 仮に『天の声』と呼ぶことにするとして、その天の声に私は条件反射で突っ込んでしまった。もう、本当に訳がわからないから説明して!


 ——レヴィーアよ。貴女は残念ながら死んでしまいました。ここは魂が一時的にとどまる場所。墓地とでも思っていただければ問題ありません。


 私の心の声に、天の声が返答する。

 というか墓地ってそんなゲームみたいな呼称……


「そっか、私死んだんだ」


 ——ええ、それはもう見事に急所を突かれました。


「そっか……そっか…………」


 リベル様を助けたかったな。

 全てがリセットになった時、私は絶対助けるって決めたはずなのに呆気なく終わってしまったな。

 私がやった事なんて、ただリベル様の周りを騒がせてイライラさせただけ。何してんだろう私、こんなの死んでも死にきれないよ……


 ——ええ、勿論です。この度は失敗に終わりましたが、貴女には何度でも挑戦できる力があります。貴女が諦めない限り、何度でも何度でも。


「え、それなんてループ仕様?!」


 初耳なんですけど!

 あと、レヴィーアって何者!?

 衝撃の事実に私は震えたけど、天の声はこれ以上何も答えてくれなかった。

 そして——




 リンゴーン。リンゴーン……




 突然鳴り響いたベルの音。これは処刑の日に聞いた時計台の?


 ——では、今回の物語の結末を見届けましょう。


 天の声がそう言うと、目の前に映像がスクリーンのように現れた。

 映されていたのは、処刑場になった街の広場で、断頭台には取り押さえられた……


「リベル様!?」


 慌てて手を伸ばしてみたけれど、ただ空を切るだけに終わってしまった。


 そういえばゲームのエンディングで、処刑されるのは王様とリベル様の二パターンがあるんだっけ。

 え、待って、待って、待って??

 既に生首の推しを見るのは辛いけど、これから推しが生首になるのを見届けろって事!? 鬼畜生おにちくしょうですか天の声!!


 慌てる私とは他所に、灰髪の男が断頭台の上へと登った。革命軍【Glaciaグラシア】の主導者——ゼンだ。

 彼は〜悪ノ王国〜の攻略対象の一人にして、唯一王国側に属さない人間。そして、私の二番目の推しでもある。


「この男は賢王と名高きクルデゥル陛下を謀殺し、このレインシェル王国を我が物にせんとした。陛下が崩御ほうぎょされてからの十年、国の変わり様は私が改めて語るまでもないだろう」


 断頭台の上で語られたゼンの言葉に、集まった国民は誰しもが瞳に怒りの炎を灯らせた。重税に苦しみ、圧政に怯えた日々を思い出しているのだろう。


「何か申し開きはあるかい?」


 その問いかけに、リベル様は何も答えなかった。ただ静かに目を瞑り、終わりの瞬間を待っている。


 ……胸が痛い。

 これからリベル様は処刑されるんだ。そう思うと、自然と呼吸も速くなった。

 何よりこの状況、仕方ないとはいえ推しが推しを殺そうとしている訳で、オタクにとってこんな辛い事もない。

 できるなら皆生きていて欲しい。手を取り合い笑って欲しい。

 でもそれは叶わない願いで……


「リベル・ディクター。王殺しの罪、並びに民を虐げ多くの犠牲を強いた罪、その命を持って償ってもらう」

 

 リベル様の罪状を述べたゼンは、片手を天に向けて掲げると、その先に大きな氷刃を魔法で生成した。


「見よ! 悪夢の終わる瞬間を!!」


 高らかに声を上げ、処刑の刃は振り下ろされる。


 途端、万雷の拍手が鳴り響き、人々の歓声は大気を震わせた。空を舞った鮮血に、国民の誰しもが喜び、涙した。


 それ程までにリベル様は悪なんだ……


 ペタリと私は座り込み、呆然とリベル様の顔を見つめた。国中に嫌われた男の死顔は、意外にも眠るように綺麗なものだった。

 

「リベル、様……」


 鼻を啜り、私は再び決意する。


 人々が喜ぶ姿を見た。

 私はこの願いがどれほど罪深いのか改めて知った。

 リベル様の穏やかな死顔を見た。

 この願いが私のわがままでしかないことを知った。


「でも助けたい」


 誰にも望まれなくたって構わない。

 他の誰の為でもない。

 私はオタクとして、ただ推しに生きて欲しいだけ! そして心の底から笑って欲しいだけ!


 ——時間になりました。レヴィーア。


「次の挑戦へ向かう時間だよね?」


 ——はい。


「任せて、同じヘマはしないから」


 ——はい。では、目を……


 そう促され、私は目を瞑る。加減がよく分からないから、最初にループした時と同じようにギュッと。

 次の瞬間——


「レヴィーア・フローディア。貴様、何をしている」

「わっ」


 推しが生きてる動いてる喋ってるぅぅうううう!!!

 無事にループできた安心と新鮮な推しの姿に、天元突破しそうなテンションを無理やり落ち着かせる。


 最初の失敗は興奮しすぎて色々としてしまったせい。大丈夫、もう学んだ。


「失礼しました、リベル様。目にゴミが……」

「その様な些事さじなどどうでも良い。私になんの用だときいている」


 怪訝そうなリベル様に頭を下げたまま、私はあれ? と固まる。


 そういえばレヴィーアはなんで執務室に来てるの!?

 ここまで来たのは私じゃないし、記憶を掘り返しても全く思い出せない!

 やっばい、なんて答えようっ!?


 背中を冷や汗で濡らしながら、私は必須に言い訳を考える。


「え、えっと、えっと……」


 上手い言葉が見つからない。

 どうやら私の新たな挑戦はまだまだ前途多難な様だ。




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  『悪ノ王国〜破滅の時を君と〜』


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 ……

 ……


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R2. 私は再び決意する (完)

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