踏んでくださいリベル様!! 〜推しが処刑エンドばかりの悪役なので、空気令嬢だけど救ってみようと思います〜

ピギョの人

R1.強くてニューゲーム!

第1話 私にとって貴様は不要だ

「レヴィーア・フローディア。貴様との婚約は、今この瞬間をもって破棄させてもらう」


 無慈悲な声でそう告げられた瞬間、雷の様な衝撃が私の身体を駆け抜けた。

 そして涙が勝手に溢れ出し、嗚咽を隠しきれずに漏らしてしまう。


「ああ、何故……」


 正直に言えば、遅かれ早かれこの様な日が来るのは分かっていた。だって私と彼の間に愛なんて初めからなく、それどころか関心を向けられた事すらない。

 婚約破棄だと言われたところで、「やっぱりね」とさえ思ったのに……何故、私は今泣いているのだろう? 


 心と身体の反応がちぐはぐで混乱する。


「私と貴様の婚約は、先王陛下のお取り決めである。だが陛下の亡き今、この契約を律儀に守る必要もあるまいと先日気づいたのだ」


 と、まるで世間話でもしているかの様な軽さで、どこまでも傲慢に目の前の男は言い放つ。


 私と彼の婚約は二十年以上も前に決まっていて、先王が崩御ほうぎょされてからも十年は経っていた。それなのに今更、放置してきた私を捨てると彼は言う。


 それはなんて、残酷な……


「あえて言おう、レヴィーア・フローディア。私にとって貴様は不要だ。即刻この城から出て行きたまえ」

「あ、あぁ……」


 ついに全身の力が抜けて膝から崩れ落ちる。


 ——嘘嘘嘘、何この冷たい目! 最高では!? 


 突然、猛烈な頭痛とともに『誰か』の声が脳内に響いた。


 ——きゃぁああ!! リベル様踏んでぇええええ!!!


「え、待って……何、なんなの……」


 痛い、痛い、痛い。頭の中に見たこともない景色が、人が、声が! 


 ——リベル様だって、幸せになったって良いじゃない! 


 『誰か』の悲痛な叫びが、胸を締め付ける。


「おい、そこの。どうやら彼女はお疲れの様だ。門まで送って差し上げろ」

「はっ!」


 蹲って呻く私を見てどう思ったのか、彼の命令で近くに控えていた近衛兵が私を立たせ、半ば連行する様に謁見室から連れ出される。

 ふらふらと王城から出ていく途中、窓から中庭で無邪気に遊ぶ銀髪の少年と金髪の少女を見た。廊下で茶髪の騎士と、赤髪の侍女じじょを見た。

 あ、そうだ。彼女は、彼らは……


 ——次はどの乙女ゲームをやろうかな……『悪ノ王国』? うん、良いかも。


 ひっきりなしに溢れてくる記憶が、見知らぬ情景からこの城に、そして先程すれ違った金髪の少女に移っていく。


「フローディア嬢」


 私を支えていた近衛兵に声をかけられ、ハッと我に返った。

 混乱している間にどうやら城門まで辿り着いていたらしく、フローディア家の家紋が入った馬車が目に入る。


 ……もうこれでこの城に来ることもないのね。


 最後と思い、王城の方を振り返る。


「うっ、あ、あぁあああぁ!」


 夜の帳を背景に、赤く燃え落ちる城。いくつもの黒煙は天へと昇り、そして、そして……

 突如として流れ込んできた知るはずもない光景に、私は絶叫した。


「フローディア嬢!」

「レヴィーア様!?」


 慌てた声が遠くで聞こえる……


「ごめ、なさ……」


 王城が焼け落ちる映像を最後に、私は意識を手放した。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



『悪ノ王国〜破滅の時を君と〜』


 New game

 Continue ←

 Option



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「思い出したぁあああああ!!!」


 ガバリと勢いよく飛び起きて、私は見覚えのない部屋に秒で固まった。


 待って、待ってココどこよ。てか、思い出したって何? 

 えっと、確か私はゲームしてて昨日やっとリベル様ルートをクリアしたと思ったら、リベル様に婚約破棄されて……あれ? 

 なんで婚約破棄されてんの私。いや、そもそもゲームのキャラと婚約って何。夢女子かよ。

 いくら最推しだからってあっはっは……


「レヴィーア様!?」


 布団を抱えて一人でノリツッコミをしていたら、黒髪お下げのメイドちゃんが血相を変えて部屋に飛び込んできた。ロングスカートのメイド服ってクラシカルタイプっていうんだっけ? あれ良いよね、分かってるぅ! 


「レヴィーア様、もうお加減はよろしいのですか?」

「え、あ、うん。良いけど」


 すごい剣幕で身体のあちこちを確認され、ちょっとビビリながらも「うん」と答える。

 すると、メイドちゃんは「良かった……」と心底安心して、泣きそうな顔になっていた。


「わ、私は……」

「レヴィーア様は王城でお倒れになってから丸七日、熱にうなされ意識を無くしていらしたのですよ」

「七日!? てか、レヴィーアって……」


 どう考えても私の事だよね!? と、思いながら鏡を見るためにベットを飛び降りる。

 身体は私が思ったほど動かなかったせいで転びそうになったけど、慌てて支えてくれたメイドちゃんのおかげで無事ドレッサーまでたどり着く事ができた。

 そして鏡に映った顔は……


「いや、誰やねん」


 断言しよう。私はこんな人物を知らない。


 髪色こそ特徴的と思える様な水色だけど、顔にはそばかすがあって可愛くも綺麗でもなく普通。言葉を変えるならモブ顔だ。背景とかに描かれる通行人Aみたいな奴。


 でも『私』はこの顔を知っている。


「貴女、メイ……?」


 隣にいる困り顔のメイドちゃんの顔を見た。


「ええ、私はレヴィーア様にメイと呼んでいただいておりますが……」


 彼女はメイリーファ。昔からずっと『私』の身の回りを世話してくれている侍女じじょ

 そして『私』はレヴィーア・フローディア。フローディア公爵家の長女二十七歳。そう、二十七歳! 

 貴族社会で二十七とか生き遅れも良いところ! 廃棄になったお弁当程度の価値もない。この先貰い手が現れる事も絶対にない。


 なんてこった、パンナコッタ! 


 あああ、今度こそ思い出した。思い出したとも。というか記憶の整理がついた。

 あの日婚約破棄を言い渡された瞬間、私は前世の記憶を次々と思い出し、そしてここが私のプレイしていた乙女ゲーム『悪ノ王国〜破滅の時を君と〜』の世界だって事に気づいたんだ! 

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