召喚士VS黒い幻想英雄4

 パーティー全員に意思が伝わったのか、切り札のための連携が開始された。

 キングレックスが身体を張って先行、囮となる。


『グォォオオン!!』


 火魔法を喰らって前に進めないが、その隙にリューナが敵へ距離を詰める。


「竜の勇者よ、いかに剣が鋭かろうが、オレ様の鉄壁の守りには――」


「ええ、そうですね。冬の獅子王。たしかに王族の特化型護身術を破るのは難しいでしょう。ですが、自分自身の声は防げますか?」


「なにっ!?」


 それを見たオータムの目の色が変わった。


「よう、もう一人の自分。久しぶりだな」


「そのライオンのぬいぐるみ……まさか」


「そうだ。〝クリアルート〟のオレ様だ」


 同じ声のために独り言に聞こえるが、オータム・バグズはレオーと会話をしていた。

 レオーはリューナの腰の袋から顔を出して話しているため、オータム・バグズの視線は斜め下に向いていた。


「それでは、オレ様によるオレ様の暗部を、何も知らない国民たちに語っていこうではないか」


「や、やめろ……」


「オレ様は――父や兄たちを殺して、その玉座を勝ち取った」


 その突然のレオー――いや、オータム自身の発言によって、観客たちはざわめいていた。

 王として体面を保つために秘密とされていた情報だったのだろう。

 本人が言っているのだから、ウソだ、と否定はできない。

 また、オータム自身が語っているので、ライトの好感度は下がらない。

 レオーと召喚契約もしていないし、彼は勝手に付いてきているだけだ。


【ライトパーティー:好感度100】【オータム・バグズ:好感度80→50】


 好感度が下がった瞬間、オータム・バグズへの攻撃が通るようになってきていた。

 リューナとキングレックスは、隙を見逃さずにダメージを与えていく。


【ライトパーティー:好感度100】【オータム・バグズ:好感度50→60】


 すぐにまた好感度が自然回復しそうになると、レオーが話を続ける。


「オレ様を心底愛してくれていた母も殺した。この手は血塗られている」


「思い出したくない……止めろ……」


「国を滅びへと導く〝魔女の秋の呪い〟も、その傲慢さが招いたものだ」


「貴様ッ! オレ様の声で好き勝手に!」


「好き勝手にも言うさ。国を救う道を歩んだオレ様と違って、バグズ――〝バッドエンドルート〟のお前は、聖女マルタルの救いの手をはね除けて、最後は殺されたんだからな」


「あ、あああああああ!!」


 それを見ていたライトは、オータムがなぜ苦悩しているかなどの詳細な状況はわからなかったが、今がチャンスだということは確信していた。

 この戦法は一度しか通じない。それなら――


「悪いな、オータム・バグズ。あなたの王としての苦しみはわかってあげられないが、こちらもソフィを助けるためだ!」


【ライトパーティー:好感度100】【オータム・バグズ:好感度70→0】


 今、全員で力を出し切って攻撃するしかない。

 いったん距離を離したオータム・バグズを追撃するようにキングレックスが突進する。


「くそっ! くそっ! 悲憤の小炎イーグニス・プレケス!」


 苦し紛れに魔法を放つも、威力が出ない。

 それにここまで、好感度を減らしたタイミングで与えていたダメージも蓄積している。

 キングレックスの突進は止められない。


「オレ様は……魔女の秋の呪いが溶けるという〝真実の愛〟を得るためなら、何でもすると決めたんだ! 今度こそ救ってみせる! 寒さに凍える我が国民たちを!」


「真実の愛……もしかして、そのためにソフィを誘拐して……」


「そうだ! この世界にはマルタルはいない! だが、聖女姫と呼ばれているソフィなら、真実の愛をもたらしてくれるはずだ! オレ様はやらなければならぬのだ! 民のために!」


 自らの大義を語るオータム・バグズの言葉は観客に届いたのか、好感度が一気に上昇した。


【ライトパーティー:好感度100】【オータム・バグズ:好感度0→30】


「くっ、すごい勢いで戻っている!!」


 威力の強まった魔法でキングレックスは行動不能となり倒れた。

 その後ろからリューナが盾を構えながら突進していく。


「お前が背負うモノがあるように、私もプレイヤーの願いを背負っている!」


「背負っているモノと軽々しく語るな! 国に住む民の命すべての重さ、お前たちとはワケが違うのだ!! 憤怒イーグニスの中炎・リートゥス!」


 爆風でリューナが吹き飛ばされる。


【ライトパーティー:好感度100】【オータム・バグズ:好感度30→60】


 さらに続くように、ハルバートを構えたブルーノが走る。


「他人の都合なんて知るかってんだ! オレを焚き付けたフッドマンの野郎がムカつく! ソイツに使われているお前もボコる!」


「大義なき者よ、話にならぬ! 悲憤の小炎イーグニス・プレケス!」


「うあつっ!?」


 あと少しの距離で届かなかった。

 人間であるブルーノは、その初級魔法を脚に一発食らうだけで動けなくなる。

 召喚士の魔力抵抗があったため、炭化せずに大火傷で済んだようだ。


【ライトパーティー:好感度100】【オータム・バグズ:好感度60→90】


 最後、ブルーノの後ろから走る影があった。

 ドラゴンローブのフード部分を目深に被ったライトだ。

 ライトは全力で走ってきていたのだが、ついにオータムの好感度が全開になってしまっていた。

 パーティー全員が身体を張って距離を詰めたのに、まだ足りない。


「俺には難しいことや、そっちの事情はわからない。だけど、俺の大事なソフィは返してもらう!」


「フハハハ! 楽しい奴だ、ライト!  女のために命を懸ける! オレ様が一番納得できる答えだ! 悲憤の小炎イーグニス・プレケス!!」


 まだ距離のあるライトに向かって、弾丸のような初級火魔法が飛ぶ。

 ライトは避けようとせずに、真っ正面から当たりに行った。


「なに!?」


 オータム・バグズは我が目を疑った。

 普通の人間であるはずのライトが、悲憤の小炎イーグニス・プレケスを耐えて走ってきているのだ。


「当たったと思ったが、かすめていただけか……? それならば確実に当てるまでよ――憤怒イーグニスの中炎・リートゥス!」


 人間では避けようのない追尾弾がライトに向かっていく。

 それでもライトは、ただ真っ直ぐに走り続ける。

 着弾――爆煙が巻き起こる。


「ふん……一発で倒れていれば、無駄に死なずに済んだものを――……なっ!?」


 今度は確信した。

 未だにライトは爆煙の中から走ってきている。

 ということは、初級魔法と中級魔法が効いていないのだ。


「ありえない……何なのだ貴様は!!」


 その問い掛けに、ライトは答えられなかった。

 実は効いていないのではなく――


(ドラゴンローブの魔法耐性が高くて助かったけど、熱がかなり通ってきて身体中が火傷してるし、熱い空気を吸ったら肺が焼けて死んでしまう……)


 少し前、オータム・バグズに誤射されたタイミングでドラゴンローブの魔法耐性に気が付いて、この強引な作戦を決行したのだ。

 常時、思考加速も展開して、オータム・バグズへの最短距離と致命傷にならない箇所にダメージを喰らうという折り合いも付けている。

 一歩間違えば焼け死ぬという綱渡りである。


(俺を守ってくれてありがとう、イナホ)


 ――この一度きりのチャンスに懸けるしか勝ち目が無い。


「うおぉぉおおお!!」


「こうなったら城を傷付けてしまうが、上級魔法を使うしかない。焼かれ続けろ――〝瞋恚イーグニス・の大炎ブローディギウム〟!」


 オータム・バグズが突き出した王笏から、赤い一本の――魔力光による導火線が現れた。

 それはライトの身体に狙いを定めているということだ。

 その導火線を伝うかのように、赤い炎――いや、もはや大規模な極光のような上級魔法が襲いかかろうとしていた。

 これだけの大質量の火に晒され続けたら、いくらドラゴンローブでも蒸し焼きにされてしまうだろう。

 ライトは肺に残っていた最後の空気を吐き出して叫ぶ。


「召喚――〝蠱毒の王〟!」


『スギョイ!?』


 喚び出されていきなり目の前が炎だったため、ギヨギヨは驚いて固まっていた。


「リューナ! 頼んだ!」


「はい! 【絶対防御魔法:テツメタフ】! 対象は――ギヨギヨ!」


 本当に鉄のように固まってしまったギヨギヨは、ライトの盾となって赫灼かくしゃくたる炎を防いでいた。


「そんなバカな!?」


 最強の上級魔法を防がれたオータム・バグズは驚愕していた。

 いくつもの仲間の協力により、ライトはオータム・バグズの懐まで飛び込む。


「だが、たかが人間! オレ様の王笏でも一撃で殺せる――」


 オータム・バグズの王笏が、ライトの頭蓋骨を砕くはずだった。

 しかし、フワリとドラゴンローブのフードが外れて、ライトの顔が見えていた。

 その美しい顔は、オータム・バグズの思い入れのある人物に似た顔。


「マルタル姫……」


 一瞬、動きが止まった。

 ライトはその隙を見逃さずナイフを握り、オータム・バグズの心臓の位置に見えた弱点を――【プレイヤー共有スキル:奇跡の一撃クリティカルヒット】で穿った。


「はぁぁぁああ!!」


 ライトは、オータム・バグズの胸に埋め込まれていた〝黒の円盤〟に手を当てて、光魔法を放つ。

 その邪悪なる黒は薄れ、徐々に〝銀の円盤〟に戻りつつ、オータム・バグズは膝をつくのだった。


――――


あとがき



面白い!

続きが気になる……。

作者がんばれー。

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