呪いの女召喚士、領主と共に兵300を連れて侵略する
「なんで……なんでアタシが、ザコライトに手こずんなきゃいけないのよ……」
領主の屋敷の一室で、呪いの女召喚士ビーチェ・ギリッシュは爪を噛んでいた。
「可愛い我が娘よ、爪を痛めてしまうぞ? なぁに……パパに任せておきなさい。あんな獣人共など、兵を300出せば象がネズミを踏みつぶすようなものだ」
長テーブルを挟んだ対面にいる恰幅の良い中年男性――ビーチェの父親であるジーモン・ギリッシュはニヤリと笑った。
ギリッシュ家当主であり、この周辺の領主。彼が今回の首謀者である。
ことの始まりはこうだ。
心優しい第三王女ソフィの頼みで、ジーモンが獣人たちに住む場所を提供することになったのだが、彼は獣人が嫌いだった。
獣人たちから体よく金を巻き上げて、代わりに価値の無い廃村を与える。
しかし、領地に獣人が住んでいるという悪評が立ってしまうことも考慮して、やはり獣人たちに消えてもらうことにしたのだ。
最初は奴隷商人をけしかけ、次に身元を隠させた数人の兵を送り込むと同時に、意外と状態の良かった廃村を焼いてしまった。
さすがにここまでやれば平気だろうと思っていたのだが、ライトという誤算があったのだ。
「そ、そうよね……。今までもザコライトの運が良かっただけだろうし……」
ビーチェは一抹の不安を覚えながらも、サディスティックな笑みを浮かべた。
それに――と小声で呟いたあと、一度しか使えない強力な〝黒い召喚石〟をチラリと見てから懐にしまった。
兵300人と、ギリッシュ父娘は廃村の手前にある森までやってきた。
さすがに人数が多いので徒歩ではなく、馬車や馬を使っている。
森の入り口から村まで、状態が良いとはいえないが直線の道が見えた。
ここを駆けていけば、すぐに獣人を蹂躙することができるだろう。
しかし――
「ジーモン様! 先頭の馬車から伝令です!」
「どうした? もう首を取ったのか?」
「い、いえ……それが……」
兵は言いにくそうな表情をしていた。
「道に多数の罠が仕掛けられていました。どうやら、迂回して徒歩で森の中を進まないといけないようです……いかが致しましょう?」
「獣風情が……無駄な知恵を付けおって! 構わん、徒歩で行け! 森の中で会ったら女、子ども誰でも殺せ! 獣人共に神はいない!」
多く獣人を殺した兵には褒美が与えられる。
そう定められていたために、兵たちの士気は高かった。
今、兵300人は森をボーナスゲーム――〝狩り場〟だと認識していた。
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