召喚士、獣人村を作り始める
ライトは待っていた。
イナホが獣人たちをモフモフして満足するのを。
兎獣人ラ・トビの白いフンワリな耳をモフモフ、犬獣人ド・シュナウのフサフサな眉毛と身体をモフモフ、その他の猫、羊、フクロウなどをモフモフしていった。
「ふぅ……ここは最高だわ……」
「えーっと、イナホ。それで――」
タイミングを見計らって話しかけたライトだったが、イナホはビクッとして後ずさった。
「う、うわあぁぁ! 人間のオーナーが視界に入ってきた! 天国のあとに地獄!」
「人の顔を見てひどい……。じゃなくて、話を進めたいんだけど。獣人たちのために、この村をどうにかしてほしいんだ」
イナホに獣人たちの期待の視線が集まった。
あの襲撃者を追い払ったライトが連れてきた助っ人なのだ。
どんなにすごい人物か、と考えるのが当然である。
「いや~……あたしなんかに期待されても困るんだけど~……。こっちはそんなに壮大なゲームジャンルじゃ――」
「ゲームジャンル?」
「あたしの世界の方向性みたいなものかな。リューナの世界『ドラゴンファンタジア』は魔王を倒す勇者の壮大なお話。それに比べて……あたしの『さよなら、都会の生活』は……のんびりと田舎で牧場とかをやったりするだけ。そんな大層な力はないの」
それを聞いた獣人たちは、不安からざわついてしまう。
イナホは〝しまった〟という顔をしてから、溜め息を吐いた。
いくら自己評価が低くても、それで他人をいたずらに不安がらせていいわけではない。
自らの頬をパチッと叩いて気合いを入れた。
「ううん。でも、こんなあたしでも、獣人さんたちのためにやるしかないんだよね……。わかった、わかりましたよ。普通に牧場で暮らしていただけの役立たずだけど、頑張ってみるよ……!」
「ありがとう、イナホ! 何か俺にもできることがあったら――」
イナホに近付こうとしたライトだったが、サッと距離を離された。
「だから、あたしは人間は苦手……。魔力が供給される一定距離にいてくれればいいって……」
「ご、ごめん」
「あ、でも、ゴールドをくれたら捗る」
「ゴールドって……アレか」
ライトは思い出していた。
リューナのドロップ能力によって生み出される、万能通貨ゴールドのことだ。
ライトはリューナからゴールドを受け取ると、それをイナホに渡した。
「うーん、少ないなぁ。それじゃあ、節約して最初は〝ボロボロの斧〟を購入しよっと!」
イナホが少量のゴールドを握り、空間に投げ入れるように使用した。
すると――
「な、何もないところから斧が現れた!?」
「これがあたしのスキルの一つ、ゴールドを使って道具を買うことができるの」
イナホは、名前の通りボロボロの斧を空中でキャッチした。
小さな身体からすると、ボロボロの斧は大きすぎるのだが、それを軽々と担いでみせる。
普通の人間ではないと周囲に実感させる力強さだ。
そのまま炭化した廃材が残っている焼け跡へトコトコ歩いて行くと、ボロボロの斧を尋常ではない速度で振り下ろした。
「えいっ!」
廃材に触れた瞬間、ポンッとブロック状の木材に変化した。
「えぇっ!?」
周囲は驚きの声をあげるが、まだまだこれだけではなかった。
イナホがブロックを数個作ったあと、それを空き地に投げ入れた。
「家になれっと」
そうすると――本当に目の前にポンッと家が出現したのだ。
焦げ跡もない新築の木の家だ。
赤い屋根がオシャレで、木製なのに隙間がなく、とても頑丈そうだ。
大きさは家族四人くらいは暮らせそうなサイズ。
完全に物理法則や、既存の魔法を無視した特級のスキルである。
「ごめんね、獣人さんたち。あたし、本格的な建築はできないから、家はこんなのしか作れないの」
「す、すげぇや……」
「こんなのって……立派すぎるだろ……」
数分で焼け跡を綺麗にして、その場に家を建築するという離れ業に全員が驚いていた。
ライトも同じように驚いていたが、体内の魔力の減り方でとてつもないスキルを使っているというのは感じ取れていた。
リューナとイナホ二人分を維持する魔力と、建築スキルの魔力。
どうやら限界ギリギリのようで立ちくらみがする。
「それじゃあ、この焼け跡をすべて家にすればいいの? オーナー」
イナホからの問い掛けに、ライトは一瞬だけ躊躇した。
このまま急ピッチで家を作り続けたら、ライトの身体が持たないかもしれない。
しかし、それでも――周りの獣人たちの喜ぶ顔を見てしまったのだ。
「ああ、できるだけ早く、みんなに家を作ってあげてくれ」
「はーい。獣人さんのためだもんね」
そんなライトの魔力事情を知らずに、イナホは物凄いスピードで村を再生させていく。
それを見たリューナは、心配そうにしていた。
「プレイヤー……。お辛いのなら魔力消費を抑えるために、いったん私を〝銀の円盤〟に戻して頂いても……」
「いや……リューナがいないと、不意打ちを食らったときに対処ができない。俺は大丈夫だから……」
「わかりました……。私は戦うことしかできない〝竜の勇者〟です。守れと指示されるのなら、プレイヤーのお側にいて――絶対に守ります」
座り込むライトの傍らに、リューナは主の剣として立つのだった。
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