召喚士、護衛依頼を達成する
ライトが馬車に戻ると、そこには尊敬の眼差しを向けてくる獣人たちがいた。
「お二人とも、すごいです!」
「うぉぉお! 多数の敵を一瞬で倒してしまうなんて信じられない!」
「やったー! こちらの被害は初めて0だー!」
みんな、ライトに感謝しながら集まってきていた。
相手は獣人なので密着されるとモフモフする。
「い、いや……俺は護衛として当然のことをしたまでだし……。それに、すごいのは五人も倒したリューナで……」
「ふふ、プレイヤー。何を仰るのですか」
感謝され慣れていないライトに対して、リューナは胸を張って自信満々に自らの主人を自慢し始めた。
「ザコの五人を私に任せて、プレイヤーは一番
「お、おいリューナ……」
「目の前の囮に騙されず、冷静な判断をして、そして自らを危険に晒してまで獣人たちを守る。私が好む勇者らしい行動です」
リューナが言っているのは多少大げさだが、事実には違いない。
普通なら囮に気を取られて、中級魔法で一網打尽にされていただろう。
ライトは恥ずかしいので否定したいが、ここで下手に謙遜しすぎても、獣人たちの士気を下げてしまう可能性がある。
「……仕方ない。敢えて身の丈に合わない評価を受け入れよう……」
「さすがライトさん! 身の丈に合わないとは、敵がもっと強くても平気だったということですね!」
ラ・トビが英雄を見るかのように瞳をキラキラ輝かせているが、ライトは苦笑いするしかなかった。
あとはこのまま士気を保ちつつ、無事に移住できる廃村まで送り届ければ依頼完了だ。
獣人たちが笑顔でいるのは良いことだし、焦らないでこのまま行くことにした。
――あれから馬車を走らせ続けているが、襲撃者はやってこなかった。
「捕らえた襲撃者を、殺さず解放してやった効果が出たのかな」
「そうかもしれませんね」
生け捕りにした襲撃者五人だが、尋問して情報を得ようとしたら、呪いで特定の言葉を話せないようになっていた。
それにどうやら、獣人を襲うことに関して襲撃者本人たちは乗り気ではなかったようだ。
獣人たちの中には『どうして殺さないんだ? オレたちの仲間は殺されそうになったのに……』という怒りを露わにする者もいたが、ラ・トビや団長などが理由を教えて説得してくれた。
それと襲撃者は明らかに育ちも装備も野盗のものではなかったので、そのまま解放することにした。
これで下手な火だねを作らないで済むし、リューナの圧倒的な強さを知れば無駄な争いも減らすことができる。
「ライトさん、リューナさん。もうすぐ廃村が見えてくるはずです!」
「そういえば……トビ、廃村って住めるのか?」
「はい! その廃村を知っている獣人もいたのですが、家の状態も良く、軽い修繕をすれば大人数が住めるようです! それに使われていない畑もあって、近くには川。森の恵みもあって、大変住みやすいようです!」
トビは今にも跳びはねそうなテンションで語っていた。
その嬉しそうな姿を見て、ライトも笑顔を見せた。
この護衛依頼が実を結び、大勢の獣人の幸せに繋がるためだ。
「護衛の人間さんよぉ……ありがとよ……。あんたが来る前に犠牲になったオレの弟も、きっと喜んでくれている……」
感謝の言葉を告げる獣人男性――他にも似たような苦しみを乗り越えながらやってきたであろう数人が、同じように頭を下げていた。
やはり、希望は良いモノだと思った。
「さぁ、歩いて前に進みましょう! 一歩一歩、努力すればきっと良い結末に辿り着くはずです!」
ライトはそう信じて笑顔を見せた。
しかし――
「何か……焦げ臭い……」
「お、おい……アレ……」
見えてきた廃村は、真っ黒に炭化していた。
住むという次元ではない。
獣人たちは笑顔から表情を上手く動かせなくて、ある者は引きつったまま立ち止まり、またある者は目を見開き、膝をついて崩れ落ちるなりしていた。
「嘘……だろ……」
「そんな……ここまで来たってのに……」
「あ、あああああああああ死んだ弟は何のためにぃぃ!!」
絶望する獣人たちを置いて、ライトとリューナは一握りの希望があるかもしれないと、炭化した村へ入って調べ始めた。
どの家も焼かれて時間が経っているようだ。
襲撃者たちは、ライトたちを襲う前に焼いていたのかもしれない。
木造の家だった黒いモノは触れるとでボロボロに崩れそうで、息を吸うだけで喉の奥にベッタリと張り付きそうな苦みを感じる。
もはや修復して住める段階にはない。
「どうにか……してやらないと……」
ライトは悔しさに顔を歪ませ、拳をギュッと血が出るほど強く握った。
「……プレイヤー。私たちの能力は戦闘に特化しています。この現状をどうにかするのは……無理です……」
「っちくしょう!」
素直に話したリューナは胸を締め付けられるような思いだった。
努力を信じ、善意で動いているライトに過酷な現実を突き付けなければいけない。
それが召喚された者の立場であり、役目。
精神的な支えにも、現状打破の人材にもなってあげられない不甲斐なさを感じる。
ここでライトが、リューナに八つ当たりしてストレスを解消でもしてくれれば割り切れるのだが、そういう人間でもない。
だから、ただ現実を教えるしかできない。
「プレイヤー。護衛依頼は達成されました。報酬を受け取って街に戻りましょう」
報酬の僅かな金は受け取らず、銀の円盤だけもらってライトとリューナは街への帰り道を歩いていた。
二人は無言だった。
重い空気の中、特に何もすることがないリューナが、銀の円盤と一緒に渡された紙束を眺める。
文字は読めないが、描いてある絵は理解できる。
そこで気が付いた――
「ぷ、プレイヤー!」
「……」
心ここにあらずというライトに対して、リューナは肩を揺さぶって注意を向けさせる。
「こ、ここを見てください! この紙に描いてある絵! 何やら家を建てているようです!」
「……え?」
「もしかしたら、この〝銀の円盤〟で喚び出せる幻想英雄は、家を建てる能力があるかもしれないということですよ!」
ライトの眼に再び希望が灯った。
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