第11話 落命

「そんな……なぜだ……あのとき確かに州刺史府ごと焼き殺したはず……」

「いやーあのときは危なかった危なかった……脱出が遅れてたら死んでたわ」


 覚束ない足取りで立ち上がったガクキを見下ろしながら、トモエは拳をぽきぽき鳴らしている。ガクキにとって、絶望的な状況であった。

 トモエの危機察知能力を、ガクキは見誤っていた。トモエが回避を得意としているのは、ただ単に俊敏だからということではない。彼女には「第六感」ともいうべき危機察知能力が備わっており、そのために今日まで矢の一つももらわずに生き残ってきたのだ。


「さて、最後の仕上げ、いきましょうか」


 ガクキのみぞおちに一撃必殺の鉄拳が叩き込まれたのは、その直後だった。吐血しながら壁の外まで吹っ飛ばされたガクキは、そのまま城外の地面に垂直落下した。その頭はトマトのように潰れ、土の地面に赤いシミを作った。

 一時はエン国軍の大司馬まで務めた高官の、あっけない最期であった。


 ガクキを失ったダイト守備隊は崩壊した。官吏もそれ以外も、我先にと城門から飛び出していった。エン国の都であったダイトは、ここに落城したのであった……

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