第11話 トモエさん八艘跳び

 一方、海上での戦いでは、相変わらずセルキー側が押されていた。そんな中、単独で八面六臂の活躍を見せる者があった。


「はああっ!」


 甲高い声を張り上げ、楼船に飛び移った人影が一つ。その人影は甲板に降りるや否や、拳の一撃で投石機の柱をへし折った。


「や、奴が来た!」

「もうこっちまで来たのか!」


 船に乗る武官たちや傀儡兵に、猛烈な拳撃の嵐が吹き荒れる。怒涛の如く押し寄せる傀儡兵は、一太刀さえ浴びせられず全て木屑と化した。

 こんなことが可能なのは一人しかない。最強無双の拳闘士、トモエである。


 トモエが無双の戦士でいられるのは、陸上に限った話である。海上戦では彼女の強みは全く封殺されてしまうのだ。

 ――だから、海上での戦いを、陸上での戦いにすればよい。

 味方の艦隊が敵艦隊と交戦している間に、こっそりトモエを乗せた小舟を一艘、敵に近づけた。この船には光障壁バリアを得意とするセルキーのみが乗り込んでおり、トモエを前線に送り出すことだけを役目としていた。

 そうして敵艦隊に近づいたトモエは、持ち前のジャンプ力で敵艦に飛び移って中の兵士をことごとく殴り倒し、それが終われば次の敵艦に飛び移る……ということを繰り返したのである。


「将軍、このままでは我が艦隊は……」

「おのれ……こんなことが!」


 旗艦である楼船の指令室で、ヨウボクは地団太を踏んで歯噛みした。セイ国艦隊は、船上のトモエと海中の潜水部隊による攻撃で、数の優位を失いつつある。必勝を確信されて派遣された艦隊がすごすご引き下がるなどあってはならない。しかし、今撤退を決断せねば、この大艦隊自体が壊滅しかねない。


「……総艦撤退。海域を離脱する」


 楼船将軍のヨウボクは、如何にも歯がゆいといった風な表情で撤退を決断したのであった。

 その後、セルキー艦隊の方から大きな歓声が上がったのは言うまでもない。彼らは死力を尽くして、自分たちの海を守り切ったのだから――

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