第10話 サメ対シャチ! 海洋の王者決定戦!

 セイ国は魔族国家の中で最も資本主義の発達した国である。規制緩和を行って商業活動の自由を大幅に認め、商業によって得た利益の中から税を取ることによって発展してきた経緯がある。それ自体は確かにセイ国の国家としての推進力となったのであるが、当然、そこには負の側面も内包されていた。

 資本主義の発達には、貧富の格差というものが必ずついて回る。一部の豪商が際限なく富を積み上げる一方で、職にあぶれ、身を持ち崩す自国民が増え、社会問題と化した。これに対して右丞相アンエイは、激化するであろう獣人族との戦いに備えて貧民を下級官吏として雇用すべしと提言し、リョショウによりこの案は採用された。失業者を公務員とするという社会主義的な政策を織り交ぜることで、何とか社会の安定化を図ってきたのである。

 ここで食い詰め者の貧民たちにあてがわれたのが、前線で傀儡兵の統率を担当する武官職である。身を危険に晒すためにあまり人気のない職であり、その上軍拡に励むセイ国にはどうしても軍人の頭数が必要という背景がある。食い詰め者たちにあてがう職としてはまさにうってつけであった。

 この政策には、当初から全く批判がなかったわけではない。大商人の商業活動に規制をかけることを主張する一部の家臣からは「貧富の格差の犠牲者たちを戦場に送り、同じ魔族の命を消耗品の如くに利用している」という意見もあがった。けれどもそのような主張は急速に進む軍拡の中で黙殺され、方針に大きな修正が加えられぬまま今日まで続けられてきたのである。


 報告書を読み終えたリョショウは、奥の私室に引っ込み、深々と椅子に腰かけた。連日の疲れからか、うとうと眠気が襲ってきて、やがて寝息を立ててすうすう眠ってしまった。

 事件の捜査が行われている間、国王は官吏とともに激務の渦中にあった。何しろ国王直属の警察による捜査が行われていたのだ。当然、報告は高官ではなく国王に直接届けられ、彼らへの指示も国王が直々に飛ばさなければならない。その忙しさたるや察するに余りあるものがあろう。

 うららかな陽射しが、リョショウの青い髪を照らしている。リンシの城下は、今日も殷賑いんしんを極めている……


***


 サメによる襲撃で窮地に陥ったセルキー潜水部隊。しかしそこに、急接近する黒い影があった。

 黒い影は流線型の体を持っていて、サメよりも少しばかり大きかった。影は複数で編隊を組みながら、勢いを殺すことなく突っ込んでくる。

 やがて近づいてきたそれは、サメの集団に向かって突進をかけた。


 黒い影……その正体は、海の絶対王者、シャチの群れであった。


「やった! 援軍だ!」


 シャチの群れは、猛然とサメに襲い掛かった。シャチはサメを逃さぬよう周囲をぐるぐると回って逃げ場を塞いでから、小さくまとまったサメの群れに突進をかけた。サメはヒレを齧られ、体当たりされるなどして次々とシャチに討たれてゆく。さしものサメも、自分よりも大きく力強い、その上知能も高いシャチが相手ではなすすべがない。

 これらのシャチは、セルキーたちがサメに対抗するために飼育し調教しているものであった。後方のセルキー艦隊はサメが海中に没していくのを見て潜水部隊がサメに襲われると判断したのであろう。シャチを援軍に寄越してくれたのだ。

 サメたちはたじたじといった風に水面から飛び出し、空へ逃げていった。このサメたちはただのサメではなく、飛行魔術を扱う飛行鮫である。海で危険な目に遭えば空へ逃げる、それは当然のことであった。


「よし、者ども続け!」


 潜水部隊の司令官は残存する兵をかき集め、敵艦への攻撃を再開したのであった。

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