第24話 空母轟沈

 エイセイの暗黒重榴弾ダークハンドグレネードの直撃を食らった航空母艦ヨシキリ。爆発とともにその船体は真っ二つにへし折れ、艦載サメや多くの乗員とともに水底へと沈んでいった。


「北の方角より敵魔術攻撃! 空母ヨシキリ撃沈!」

「クソがっ!」


 ロハクトクは床を蹴って怒号を発した。


「陸軍に支援を要請して、魔術攻撃の出所を押さえさせるしかない、か……」


 ロハクトクは犬人族艦隊などを恐れてはいない。しかし、艦隊決戦時に陸側から魔術攻撃を投射され、正面と陸側の二方向から攻撃を受けるのは避けたかった。

 今なら三万の陸軍は攻城戦に入っておらず、まだ近くに陣を置いているはずである。そちらから部隊を割いてもらって魔術攻撃の出所を叩かせ、艦隊は艦隊同士の決戦に専念したい所である。

 ロハクトクは通信石に魔力を込め、デンタン将軍へと連絡を通じた。


***


 航空母艦ヨシキリを沈めたエイセイたち。しかし、上空には帰る場所を失った飛行鮫がまだ四匹おり、隙あらば飛びかからんばかりに鼻先をエイセイたちに向けている。リコウの剣とトウケンのナイフで牽制してはいるものの、それはあくまで牽制にしかなっていない。調教を受けた飛行鮫たちにはある種のインテリジェンスがあるようで、攻撃を巧みに回避してくる。


「船は沈めたってのに……どこまでも主人想いなサメだな!」

「ほんっとうにしつこいのだ!」

「……あんまり使いたくはないが仕方ない。闇の魔術、暗黒雷電ダークサンダーボルト!」


 エイセイが威斗を振り上げると、黒い雲が発生する。そこから発した黒い稲妻が、滞空中の飛行鮫を襲った。三匹は雷が直撃し、黒焦げになりながら地面に落下した。だが残る一匹は上手く回避し、エイセイの方に向かってくる。当のエイセイは、息を切らしていた。魔術攻撃を続けたせいで、疲労が溜まっているのだ。


「やめろ! エイセイに近づくなぁ!」


 リコウが、そこに踊りかかった。リコウの剣が、大きく開いたサメの口内に向けられる。




 そして、リコウの体は、丸ごとサメに呑み込まれた。




 一連の流れを見ていた三人は、一言も声を発しなかった。あまりの衝撃に、言葉を失ってしまったのだ。からん、というかねの音が響いた。エイセイが手に握った威斗を落としてしまったのだ。


「そんな……リコウ……」


 最初に口を開いたのは、エイセイであった。その細く白い腕は小刻みにぶるぶる震えている。目は潤み、今にも涙が溢れ出しそうであった。


 やがてエイセイの両目から雫が溢れ、頬を伝う。まさにその時のことであった。


「せぇい!」


 声とともに、サメの腹が地面と水平に裂けた。その裂け目は段々と大きくなり、やがてサメの腹は輪切りにされてしまった。



 その中から、リコウが出てきた。


「ふぅ……脱出成功」


 サメに呑み込まれたリコウは、そのまま手に持った剣を使って、内部からサメを引き裂いたのだ。そうして今、ようやく脱出することができた。


「……よかった……リコウ……」


 涙目のエイセイが、リコウに寄ってきた。


***


 夜の間に、エイセイたちは再び最初にいた小山へと戻った。

 上流側には長距離攻撃陣地に適した小高い場所がない。上からの眺めがなければシフの「千里眼」と組み合わせた長距離魔術攻撃は大きく制約を受けることとなる。俯瞰ふかんで敵陣を視察できる利があって初めて、シフとエイセイの共同攻撃は力を発揮するのだ。だから、最初に陣取ったあの小山の上こそがベストポジションなのである。


 明くる朝、犬人族艦隊四十隻がようやく戦場へと到着した。これが、犬人族側が即時用意できた限界の水上戦力であった。

 やがて、両者の間で矢弾の応酬が始まる。やはり犬人族艦隊は弱い。たちまちに押され始めた。


「……ボクたちもやろう。暗黒重榴弾ダークハンドグレネード!」


 エイセイの魔術攻撃が始まった。放たれた黒い球体は、一射ごとに着実に敵を一隻ずつ沈めていく。まさしく必殺の魔術であった。


「ええい! 魔術攻撃が鬱陶しい! 陸軍はまだなのか!?」

「北岸を確認しておりますが……兵は到着しておりません!」

「何をやっておるのだ……」


 ロハクトクが頼みにしていた陸軍は、全く到着の気配を見せない。このままでは艦隊は長距離魔術攻撃の餌食にされ続ける。


 結局、日が沈むまでに、ロハクトクが要請した陸軍は現れなかった。


 一日の会戦で、互いに多くの損害を出した。勝負は痛み分けといった具合に終わり、セイ国艦隊は僅かに残った軍船を率いて撤退していった。犬人族側は艦隊壊滅といっていい程の損害を被ったものの、敵艦隊の排除には成功したのであった。これは戦術的勝利といってよい。これで、ヤユウと南部の城郭都市群との間の連絡は遮断されずに済んだ。


「さて、じゃあオレたちも早く帰らないと」

「待って! ……何か来る!」


 シフが、何かを察知した。何かが、四人の方へ近づいてきている。

 小山の北側。そこに、青い旗がはためいていた。セイ国軍である。


「今度は陸軍かよ……」


 リコウは眉根に皺を寄せながら、迫りくる敵軍を睨みつけていた。

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