第23話 サメ母艦・ヨシキリ
航空母艦ヨシキリ。セイ国が建造した大型艦である。
流石の魔族軍も、航空戦力というものには流石に手を伸ばしていない。彼らの間で航空主兵論が持ち上がらなかった理由として、飛行魔術の効率の悪さにある。魔族にとっても、それ以外の種族にとっても、基本的に飛行に関する魔術は魔力消費量が大きすぎて戦闘用にはあまり適さない。そういった事情がある。
だが、セイ国は近隣の海洋や河川に棲息する飛行鮫に目をつけた。彼らを調教して水空両用の兵器としたのである。魔族の中には「
「エイセイ、どう? あれ狙えそう?」
「うーん……ちょっと届かなさそうかな……」
シフの問いに、エイセイは首を横に振って答えた。
エイセイの
「どの道あれを潰さなきゃ攻撃に専念できないぞ。移動するしかないんじゃないか」
「そうなのだ。今のままじゃ、まだ削り足りないのだ」
エイセイたちは、最低でも敵艦を半分に減らさなければならない。そこまで削らなければ、犬人族艦隊はひと思いにひねり潰されて終わりであろう。
犬人族は水上戦が得意ではない。自慢の脚力や敏捷性が活かせないからだ。セイ国艦隊を仮想的として作り上げた水軍も結局の所間に合わせのものでしかなく、造船技術、運用ノウハウともに未熟もいい所である。加えて頭数も足りていない。
それに対してセイ国は、長年の艦隊運用のノウハウがあり、造船技術も高い。正面からぶつかって勝てる相手ではないだろう。
さらに悪いことに、両軍の位置取りもセイ国軍側に味方している。河川における水上戦では、上流側に浮かんでいる方が、攻めかかる際に流れを味方につけることができ有利である。今上流側はセイ国軍に取られており、下流で彼らを迎え撃たねばならない犬人族艦隊は不利を被る。
「サメの数……数えられるか?」
「ちょっと待っててね……ええと……ひい、ふう、みい……十五匹いるかな……」
「げっ……そんなに……」
リコウは苦い顔をした。飛行鮫が、十五匹。戦力としては脅威的である。空から襲いくる巨体の肉食魚を操ってくる相手など前代未聞だ。しかもこれは矢や投石機の届かない場所にも攻撃が可能であり、放置すればアウトレンジから一方的に攻められてしまう。犬人族艦隊など、あっという間に壊滅させられてしまうであろう。
「取り敢えず、あの船を攻撃できる場所まで移動しよう」
「……リコウの言う通りにしよう。あれを放っておいちゃいけない」
そうして、一行は西へと移動した。しかし、この時、発艦したサメが、彼らを狙っていた。
「くそっ! 邪魔をするな!」
「ニャ! しつこいのだ!」
リコウの剣とトウケンのナイフが振るわれ、向かってくるサメを牽制した。サメも刃が当たれば身を切り裂かれることを理解しているのだろう。迂闊に近寄ってはこなくなった。その代わり、リコウたちの方もサメを仕留め損ねている。
「……ここからなら、届くかも知れない」
エイセイは、土が露出した平らな場所で立ち止まった。それに合わせて、全員が立ち止まる。
「シフ。お願い」
「うん、やろう。エイセイ」
シフが、エイセイの左肩に手を置く。俯瞰ではないのではっきりとした敵艦隊の配置は分からないが、目標の大型艦は最後尾に位置し、しかも大型であるが故にすぐ狙いがつけられた。
だが、そこにサメが五匹、上空から急降下してきた。エイセイはすでに
「トウケン! 一緒にエイセイを守るぞ!」
「ニャ!
リコウが弓を、トウケンが両手にナイフを構えてサメを迎え撃った。サメを必ずしも討ち取る必要はない。少しの間、エイセイをサメから守れればそれでよい。
二人はシフとエイセイの前に立ち、リコウは向かってくるサメに矢を放ち、トウケンはナイフ二刀流で斬りかかった。調教の成果か、サメは野生の飛行鮫よりも知性があるようで、一匹の鼻っ面に矢が刺さったのを見て二射目の矢が回避されるなどした。トウケンはナイフで果敢に立ち向かったが、その刃が体に当たる前に急旋回し躱した。
撃墜に成功したサメは、リコウが最初に矢で射抜いた一匹のみ。残りの四匹は巧妙に攻撃を回避し、旋回して距離を取った。
しかし、四人にとってはそれでよかった。
「……さぁ、食らえ。闇の魔術、
エイセイが、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます