第21話 セイ国連合艦隊と、エイセイたちの戦い

 同じ頃、リコウ、シフ、エイセイ、トウケンの四人は、南に向かっていた。南に流れるレオ川には、セイ国艦隊が迫っている。これと戦うために、四人はトモエや犬人族たちと話し合い、別行動を取った。


 セイ国は、魔族国家の中でも殊の外水上戦力に力を入れている国である。

 水上戦力自体は他の国もそれなりに保有しているが、こと艦隊においてはセイ国ほど先進的な艦隊を有する国はない。国土が東の海に面しており、南北に大河川を有するセイ国は艦隊の造設にいち早く着手し力を入れてきた。

 セイ国艦隊は元々、河川を航行する「河川艦隊」と、海洋を活動圏とする「海洋艦隊」とに分かれていた。しかし、セイ国水軍の行動範囲の拡大に伴い、河川艦隊が海洋艦隊に吸収される形で両者が統合され、「セイ国連合艦隊」が設立されたのである。ギ国の約十倍、ソ国の約二倍の軍船保有数を誇るセイ国は、まさしく水軍強国なのだ。


 エイセイたちは小山の頂上に登り、そこからレオ川を眺めた。川に展開しているセイ国の艦隊は殆どが「闘艦」と呼ばれる帆付きの中型艦と、「游艇ゆうてい」と呼ばれる小型の艦船だ。いずれも木造船で、前後左右に設けられた矢狭間から弩兵が川岸を警戒している。闘艦の方には甲板に床弩が一つ備え付けられているのも見えた。

 シフはエイセイの肩に手を置き、「千里眼」の力で自信が見ている映像をエイセイの脳内に流し込んだ。


「……行くよ。闇の魔術、暗黒重榴弾ダークハンドグレネード!」


 エイセイは威斗を振り上げ、その上に黒い球体を発生させる。威斗が振り下ろされるとともに、その球体は放物線を描いて艦隊の方へ飛んでいった。

 黒い球体は、一隻の闘艦に直撃した。爆発とともに闘艦は粉々に砕け散り、乗り込んでいた傀儡兵と武官ごと川底へ沈んでいった。


「北北東の方向より敵の魔術攻撃! 闘艦一隻轟沈!」


 最後方の旗艦。その司令室に置かれた通信石から声が発せられた。その報告を聞いた艦隊司令官ロハクトク、その表情は苦々しいものへと変わった。

 

「ちぃ……てっきり陸軍の方へ行ってると思ったが……まあいい、我らセイ国艦隊の恐ろしさを教えてやる。サメ作戦オペレーション・シャーク、開始!」


***


暗黒重榴弾ダークハンドグレネード!」


 暗黒重榴弾ダークハンドグレネードは長い射程と高い威力を持つ代わりに、連射はあまり利かない。それでもエイセイは、一隻ずつ、着実に敵艦を沈めていった。敵の矢弾は、エイセイたちの陣取る小山の上まで届かない。

 エイセイたちを攻撃するのであれば、船から降りて戦いを挑まねばならない。だが、それも許されない状況であった。というのもこの時、ニ十隻の小型船からなる犬人族艦隊が川を遡上してきていたからである。船から降りて兵を上陸させれば犬人族艦隊を防げず、上陸させなければエイセイの長距離魔術攻撃を受け続ける。セイ国艦隊は二正面作戦を強いられて窮地に陥っている。

 窮地に陥っている、そのはずであった。


 見違えるほどに大きな一隻の艦が、川を下降しセイ国艦隊の最後尾についた。その甲板は、まるで航空母艦のように真ったいらである。その上には、何匹ものが積載されていた。


「ロハクトク提督。こちら航空母艦ヨシキリ、準備完了です」

「よし、やれ」


 通信石を介して、艦隊司令かロハクトクと航空母艦ヨシキリの艦長がやり取りを交わしている。


「艦載飛行鮫、全頭発進!」


 飛行甲板に立つ武官が、高い音の笛を吹き鳴らした。その音を合図に、飛行甲板の飛行鮫が、一斉に空へと飛び立った。目指すは、エイセイのいる小山である。


「はぁ……はぁ……ちょっと疲れてきた……かな……」


 暗黒重榴弾ダークハンドグレネードを何度も放ったせいで、エイセイにも疲労が現れ出した。けれども犬人族艦隊が接敵する前に、できるだけ敵艦の数を減らしておかなければならない。ここでへこたれている場合ではないのだ。


「皆! 向こうからこの間のサメが飛んでくるよ!」


 飛来する飛行鮫に最初に気づいたのは、やはりシフであった。


「え、あの空飛ぶサメか?」

「……あれに来られるのはまずい……」

 

 リコウは弓を引き、矢を放った。一匹は鼻っ面を射抜かれて墜落していったが、その後方から数匹のサメが迫ってきていた。次の矢は間に合わない。リコウは剣を引き抜いて迎え撃つ構えを取った。トウケンもナイフを両手に構え、リコウ同様に迎撃体勢を取る。

 

「このっ!」

「食らうのだ!」


 リコウは剣を振り下ろし、トウケンもナイフを振るったが、サメはすんでの所でそれを避けた。そして、隙を見せたリコウとトウケンに、四匹のサメが殺到する。


光障壁バリア!」


 リコウ、トウケン両者の体の前に、光障壁バリアが張られた。サメは勢いを殺しきれずに光障壁バリアに激突し、その巨体をのけぞらせた。サメはそのまま、飛来した方角へとんぼ返りしていった。


「……シフ、サメの出所は見える?」

「分かった。見てみる」


 シフは「千里眼」の力を使い。サメが来た方向を眺めてみた。すると、長く広い甲板を持つかなり大型の船が、敵艦隊の最後尾に見つかった。そこに、サメが着艦する様も見て取ることができた。この大型艦が、飛行鮫の出所である。


「セイ国の奴ら……サメを兵器にしてるのかよ……」

「ううむ……飛行鮫を兵器として使うなんて、流石のぼくでも聞いたことないのだ……」


 セイ国軍。この軍は、これまで戦ってきた相手とは違う……リコウも、シフも、エイセイも、トウケンも、そう感じざるを得なかった。

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