第46話 エン国王カイ
後方から姿を現したのは、これまで見た魔族たちよりも一際小柄で、幼い容貌をした金髪の少年であった。
「え……何あの子……めっちゃ好みなんですけど……」
少年の姿を見たトモエは、平手で鼻を押さえながら感激の表情を浮かべた。その頬にはほんのり紅色が差している。
「で、殿下!」
武官たちが、驚愕とともにこの少年を出迎え、恭しく拱手の礼をした。その様子は、この少年がどういった立場の者であるかを如実に表している。
――あれが、倒すべき敵の国王だ。
「たった四人でここまで来るなんて……大した奴らだよ全く」
「もう
それを横で聞いていたリコウは呆れ顔をしたが、よく聞いてみるとこれは敵に対する挑発文句なのではないか、という気がしてくる。
「国君を愚弄するか、人間め!」
武官の一人が、怒りながら矢を放ってきた。トモエはすかさずそれを掴み投げ返す。矢返しはトモエの得意技だ。投げ返された矢は矢を射かけた武官の眉間に命中したのであった。
「やるじゃないか。人間の癖に」
「ああーそういう自分以外のものを見下した目線も好き……ちょっとご褒美かも……」
トモエは相変わらず自分のペースでショタ愛を語っている。今の彼女は傍目から見れば頭のおかしい人にしか見えないだろう。
「キミたちはこの首を取りに来たんだろう? このボク、エン国王カイの首をね」
「……やっぱり戦わなきゃいけないよね」
トモエの視線が鋭くなった。拳を握りしめ、構えを取って臨戦態勢に入った。
「お前たち、下がっていろ」
「ははっ!」
国王の命令で、武官たちはすごすごと引っ込んでいった。この場には、ただこの国王とトモエたちだけが立っている。
「長旅ご苦労さん。でも、もうキミたちは終わりだ。
その時であった。急に、宮殿全体が震え始めた。それとともに、壁が崩落した。その
宮殿全体の震えのせいで、トモエは近づこうにも近づけなかった。そうしている内に瓦礫はどんどんカイへ集まっていき、それは次第に上へ上へと積み上がっていった。それと反比例するように宮殿の壁は消えてなくなっていく。
そうして出来上がったのは、見上げるばかりに大きい、岩石の巨人であった。宮殿の天井や壁は巨人の素材となってしまったようで、後には床だけしか残されていない。
「さぁて、このカイの魔術を見たからには、生かして帰さないよ」
巨人の胸に、黄色い水晶のように透き通った石がある。その中に、カイはいた。この国王は、トモエたちを見下ろしながら狂暴な笑みを浮かべている。
「こいつ……くそでけぇ……こんなのに勝てるのかよ……」
巨人を見上げたリコウは、流石に恐怖を覚えた。生物というのは本能的に、自分よりも大きいものを恐れる。それが見上げるような巨人であれば尚のことであり、怖がるなという方が不可能な注文である。それはこれまで数々の戦いをくぐり抜け、生き残ってきたリコウであっても同じこと。
「……的が大きい分、狙いやすい」
一方のエイセイは、落ち着き払っていた。エイセイの魔術攻撃は火力と攻撃範囲範囲、そして遠距離への投射能力に秀でている。ちまちましたものを狙うのは苦手な反面、こういった大きな相手であれば多少狙いが雑でも当てることができる。巨大な敵に対する恐怖心よりも、寧ろそういった御しやすさが、エイセイの心の中では勝っていた。
「……闇の魔術……」
エイセイの右腕が、空へ向かって掲げられる。その掌の上に、黒い球体が発生した。その球体はみるみるうちに膨れ上がっていく。
「
黒い球体が、エイセイの掌の上から放たれた。球体は放物線を描きながら巨人にぶつかる進路をとっているが、巨人の方はその場を動かなかった。
黒い球体は、巨人の腹に命中した。爆音が鳴り、爆風が周囲を薙いだ。今までの「
「……やった……かな……」
暫く、巨人は立ち昇る煙に包まれていて、よく見えなかった。けれども、エイセイは勝利を確信しているようであった。
「あ……その一言は言っちゃ駄目……」
敵に煙を上げるような高威力の攻撃を当てた後で「やったか!?」などというようなことを口走った場合、高確率で敵はやられていない。トモエの前世の世界には、そうした不文律が存在していた。
そして、案の定、トモエの予想は当たっていた。煙の中から、巨人の拳が飛び出してきたのである。
「うわっ!」
拳は一直線にトモエを狙って振り下ろされた。物凄い風圧を伴いながら、岩の拳が迫りくる。トモエは吹き飛ばされないように
「このデカブツ……どう料理したものかな……」
巨人を見上げながら、トモエは呟いた。
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