第32話 サメ! サメ! サメ!
「で、デカい!」
三匹の巨大な陸鮫は、そのまま四本の脚で陸地に着地した。地を這う様は、サメというよりワニのような雰囲気がある。もっとも、トモエが前世において暮らしていた国では、サメの別名としてワニと呼ぶことがあり、その名残でシロワニという名のサメが存在しているのであるが。
「闇の魔術、ダークハンド……」
「待てエイセイ!」
「暗黒重榴弾」を放とうとするエイセイを、傍にいたリコウが制した。
「それを撃ったら前にいるトモエさんが巻き添えになっちまう」
「……ああ、そうだった……」
エイセイは、強力な攻撃魔術を扱える一方、実は戦闘経験はこの前のエン国軍との戦いを除いては全くない。エルフたちは狩猟を行うこともあるが、エイセイは羊飼いを任されており狩りに出かけたことはない。その唯一の戦闘経験であるエン国軍との戦いでも「暗黒重榴弾」の照準はシフに任せっきりであった。根本的に魔術を用いた戦いのノウハウが足りないのだ。
「こっちに来るんだったら、やるっきゃない!」
トモエは三匹のサメの内、真ん中にいるサメに向かって行った。そして、大口を開けながら突進するサメの鼻っ面に、強烈な飛び蹴りを食らわせた。蹴りを食らったサメは後方に大きく吹っ飛んでいったが、その隙に両脇をサメが駆け抜けていった。
その内、右側のサメが、シフに向かって突進してきた。
「
シフが両手を前にかざすと、その前方に白く光る壁が出現した。サメは尚もスピードを落とさず走ってきて、壁に衝突した。
「うわあああああっ!」
光障壁のお陰で、シフはサメに頭から食われるような目に遭わずに済んだ。しかし、巨体の突進が直撃したことで障壁自体が後方に押し出され、シフに追突してしまった。シフの小さな体が、後ろに大きく吹っ飛ぶ。
「くそっ……こんなデカいのが三体とか反則だろ! エイセイ、左の奴を頼む!」
「……分かった」
リコウは剣を構えて走り出した。狙いはシフを吹き飛ばした個体だ。トモエの左側に抜けた個体はフリーになってしまうが、そちらはエイセイが抑えに回るより他はない。
シフに向かって距離を詰めようとするサメ。その目の前に、リコウが立ち塞がった。
「さぁ来い!」
サメがリコウを食らわんと突っ走って来るが、リコウは退かない。数々の死線を潜り抜けてきた彼は、これしきのことでは臆さない。サメの突撃に合わせて、リコウは剣を横倒しに構えた。大口を開けて迫ってきたまさにその時、突進を受け止める形で、白刃がサメの口角に食い込んだ。
「このまま切り裂く!」
柄を握る手が、反動で持っていかれそうになる。それでもリコウは柄を握り続けた。サメは足を止めることができないまま、白刃に肉を裂かれてゆく。真っ赤な鮮血が噴出しては、まるで雨のようにリコウの鎧に降ってきた。それでもリコウは足を踏ん張り、柄を強く握ってサメの体を切り裂く。
やがて、リコウの手に伝わる反動が消えた。見ると、血まみれになったサメが、リコウの後ろで斃れ臥していた。如何にタフな陸鮫と言えど、口角から大きく体を裂かれ、大量に血を噴出させては、もう動くことなど叶わないであろう。
「闇の魔術、
エイセイは、トモエの左側をすり抜けたサメに向かって黒い球体を放った。だが、サメは軽快な跳躍でそれを回避してしまう。見かけによらず身のこなしが軽い。侮れない相手である。
「くそつ、もう一発!」
さらにもう一発、「暗黒重榴弾」を放ったが、それもサメに回避されてしまい、当たることはなかった。この巨体でよくぞと思える軽快さである。
もう、サメはエイセイの目前に迫っていた。魔術攻撃を出そうとするが、間に合わない。
「エイセイ!」
そこに、サメを斬り伏せたばかりのリコウが駆け寄ってきた。エイセイに食らいつこうとしたサメに向かって剣を薙ぐ。サメの体から血が噴き出し、その巨体が仰け反る。
「……リコウ、ありがとう……」
「礼を言うのはまだ早い。来るぞ!」
仰け反ったサメは、すぐに体勢を立て直した。そして再び、突進の体勢に入る。
だが、サメが突進してくることはなかった。
「どおおおりゃああああ!」
その尾びれの付け根を、トモエさんが掴んでいたのだ。そして、ジャイアントスイングの要領で、恐らく相当な重量があるであろうサメの巨体をぶん回し始めた。凄まじい怪力だ。
「そぉれ飛んでいけ!」
トモエは川の方に向かって、サメの体を放り投げた。宙を舞うサメの巨躯は、暫く滞空した後、大きな水音と飛沫を立てて水中に没していった。
「ありがとうトモエさん」
「いや、礼を言うのはまだかな。リコウくん」
さっき自分がエイセイに言ったのと同じようなことをトモエに言われて、リコウは顔を赤らめて俯いた。
「やっぱり……あいつら本当にしつこいね……」
トモエの視線の先、川の水面から、二つの背びれがひょっこりと飛び出した。一つは最初にトモエの跳び蹴りを浴びた個体、もう一つは先程トモエがジャイアントスイングで川に投げ飛ばした個体であろう。
川岸に、再び二匹のサメが這い出てきた。その獰猛な眼が、
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