第16話 変な日課

シグマが出て行って二週間が経過した。

未だ手紙もなく、所在不明のままだ。

俺から連絡を取る手段はないし、

シグマの居場所を予想することもできない。


「あいつ今何してんだろうな。。」


テレビをつけるとニュースがやっていた。


革命軍と国家権力の混戦地域。

戦地の現状をカメラが映し出す。

命の減らしあいの映像は好きではなかった。

世界情勢なんかにも興味はなかった。


だが、何故かその時は、それを見てみようと思ったんだ。

虫の知らせ、運命、未来予知。

いずれかに当てはまるのかもしれない。


鋼鉄の戦車が国家権力の軍を突破していく。

銃弾の雨が降る中、戦車の上で軍の侵攻方向を指揮する人がいた。

灰色のマントで全身を覆い、頭にもフードをスッポリかぶっている。


カメラがその人にズームを向ける。

「こちらが革命軍リーダー!燎原の火の異名を持つ、シグマーノ4世様です!!」

カメラマンは現場リポーターも兼ねているらしい。


「もの凄いカリスマ性ですね。」

「戦地を駆けるお姿は、見るものを引きつけます。彼女の入隊で革命軍は倍の人数になっているそうです。」

「いわゆる彼女目当てのスケベ軍団とも言えますね。。」

「国家側が降伏するのも時間の問題でしょう。スケベとは強大ですね~。」


スタジオのキャスト達がペラペラな会話をしている。

どうやら、スケベの力で国が覆されようとしているらしい。

「やっぱり、人間の原動力はスケベなんだな~。」


「ん?何か言った??」

「い、いや!なんでもないよ!」

「そっか~!」


あっぶね。

天沢さんが隣の部屋にいる生活にも、

少しづつ慣れてきたが、ふとした時に忘れてしまう。


しかし、この距離感だというのに、天沢さんは特に何も感じていないのかな。

学校でも家でも、まったく彼女の俺への接し方は変わらない。

俺はこんなに浮き足立っているのに。。凄く悔しい。

だが、誰にでも平等に接する彼女が好きでもあった。


「明日の登校も私が勝つわよ!」

「それはどうかな。明日の俺は昨日より速いよ!」

「ふふっ、それは楽しみね!」

「俺も楽しみさ!」

「アッハハ!おやすみ~」

「おやすみ!」


シグマが去ってからの二週間。

俺は毎朝天沢さんと登校(競走)していた。


一度も勝てていない。

初回は短距離だったので、いい勝負だったが、

今はマンションの出入り口からスタートする為、もはや長距離だ。

体力の差が如実に表れる。


天沢さんに挨拶をして走り去っていくという目標は、

まだまだ達成できそうにない。



ちょうど朝の七時半。

天沢さんと登校(競走)スタートだ。


タタタタタタ!!


校門まで200mのところで、距離を引き離される。

彼女の甘い香りが遠ざかっていくのが、いつも悲しい気持ちにさせる。


ついこの間まで、空気嫁創造しかしてこなかった肉体だ。

体力があるわけがない。

だが、ここまで天沢さんのスピードに食らいついていける。

体力ではなくスケベ力の力だ。


「ぜぇぇえ~~はぁぁあ~~はぁはぁ!!」

毎度校門を越えたら倒れる。


「あっはは!あんた懲りないわね~!

いつになったら天沢さんに勝てるのよ!」

美幸だ。


「う、はあぁ~~。うるぜ~~!!はぁはぁ!」

「というか、なんで競争に発展したんだろう。。」

「ふぇ~?覚えて、はぁはぁ、ない!!」

「ふ~ん。ねー!鈴木、天沢さんに変な気を起こしてないでしょうね?」

「はぁはぁ…お、起こしてねーよ!」

いや、変な気しか起こしてねーよ。

「まぁ、鈴木は変な気を起こしても、何もできないでしょうけどね。」

「…」

図星をつかれた。。

「よっこら!」

また美幸に肩を貸してもらい立たせてもらう。

変な日課ができたもんだ。。

「監視役として、明日からあんたの家に引っ越すから!」

「ふぇ!?」

「ちゃんと部屋綺麗にしといてね!」

美幸が大きなツリ目を片方閉じてウィンクする。

か、可愛いじゃねーか。

そのまま昇降口を通り、自分の教室へ向かう。


「へ…?へえぇぇーーええ!?!?」

ウィンクに気をとられた俺は、美幸の重大発言を遅れて理解する。


絶対放課後捕まえて、話を聞かなくては。。


へろへろの足取りで自分の教室のドアを開ける。

教室全員の目がこっちを見ている。


「ん?なんだ?」

「なんだよ鈴木かよ~」

「ガッカリ~」

「すすぎ帰れ!!」


大ブーイングをうける。

天沢さんもクスクス笑ってる。


「なんでじゃ!!」

あまりにも理不尽なブーイングに物申したくなった。


カッカッカッ!!


「はい!お前ら席につけー!」


背後から担任の佐野先生が現れた。

不意に後ろに迫った、母なる大地のようなボディに、

俺は合掌せずにはいられなかった。


ポンポン!


「何やってんだ鈴木。席つけ!」


カッカッカッ!


佐野先生にすれ違いざま、頭をポンポンされた。

教室にいる男どもの、羨んだ視線を感じる。

足はへろへろ、気持ちはホワホワで席に着く。


「栗田。俺は今、一生の思い出ができちまった。」


ガタッガタッ!


栗田が席を立ち、佐野先生の前まで歩いていき、突然合掌をした。


パコッ!


栗田は当然頭を教科書で叩かれた。

「バカ栗田!席つけ!!」


しかし、戻ってきた栗田は、満面の笑みだった。


「ふ~、癖になっちまいそうだぜ!」

少し大人になった顔で栗田が言う。

「栗田キモいぞ。」


「みんなおはよう!知っている人も多いだろうが、

まず今日は転校生を紹介します。では、入ってきて!」


なるほど、さっきのブーイングは、

楽しみにしていた転校生じゃなくて、俺が教室に入ってきたから、

皆ガッカリしたってことか。。

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